顧客開発モデルとリーンブランディング
―― エリック・リースが提唱したリーンスタートアップは一大ブームとなりました。今回の『リーンブランディング』はその実践手法の一環ですね。
堤:
リーンスタートアップの源流はエリック・リースの師匠にあたる、スティーブ・ブランクの「顧客開発モデル」です。スティーブ・ブランクの顧客開発モデルというのは、アントレプレナー(起業家) が生み出した製品やサービスのビジネスモデルを検証しながら、「顧客発見」「顧客実証」「顧客開拓」「組織構築」という4つのステップで進めていくと言う、新規事業の創造手法です。
今回のリーンブランディングは、この中では3番目の「顧客開拓」の方法論と言えます。 2009年に「アントレプレナーの教科書」(スティーブ・ブランク著 翔泳社)が出て7年が経ち、今回満を持してブランド構築の手法まで行き着いたという感があります。
――リーンブランディングのエッセンスは何でしょうか?
堤:
一言で言えば、製品やサービスを、多くの顧客に知ってもらうための「リーチ」の手法だといえます。顧客に対して正しいメッセージを届けるための方法として、ブランドの構築、計測、学習の実践方法を解説しています。コミュニケーションチャネルがインターネットやモバイル、ソーシャルへとシフトしていく中でのこれまでの方法とは異なる、ブランドの刷新手法や最新のロゴ戦略なども紹介しています。
ストーリーとしてのブランドをつくる
――スタートアップにとってのブランディングは何から始めるべきでしょうか?
飯野:
ブランディングに取り掛かる前に顧客開発モデルのいくつかのステップを済ませておくことが重要です。ブランディングを行なう前に「誰にどのような価値を伝えるか」ということが明確に定まっていなければなりません。これを「ビジネスモデル・キャンバス」で表現すると、キャンバスの中心にある「どんな価値を提供するか」(バリュープロポジション:VP)と顧客セグメント(CS)を確定した上で 「顧客との関係」(CR)についての仮説を検証していくということです。
私たちも「ビジネスモデル・キャンバス」を使ってスタートアップ向けにワークショップを行う機会が多いのですが、皆さんキャンバスの9つの枠を最初から一遍に全てを埋めようとしがちです。しかし、中心の「提供価値」(VP)が定まらなければ、それを「どう伝えるか」も決まってこない道理です。新規事業を始めようと言う人は、他社との差別化や優位性のためにブランディングをしようとしがちですが、仮説の中心となる提供価値(VP)と顧客セグメント(CS)を確定させてからブランドの構築に入る、という基本動作が必要なのです。