人間の持つ共感の力は、「助け合い」を越えてさらなる協力の進化を実現する
しかし、キング牧師やマンデラ元南アフリカ大統領のような、歴史に名を残す人物のことを想像すると、彼らが周囲からの評判を気にして行動していたようには思えない。偉大な人物でなくても、人間には匿名の寄付や献血といった見返りをまったく期待しない、足長おじさんのような行動が広く見られる。こうした「恩送り」や「ペイフォワード」と呼ばれる、純粋に利他的に思われる人間の行動について、近年、ニューロサイエンスの研究成果により我々は説明できるようになった。
東京大学(当時)の増田直紀准教授、渡部喬光特任助教、北海道大学社会科学実験研究センターの竹澤正哲准教授らは、このような恩送り行動の神経基盤について世界で初めて、人間には他人と感情を共有するSFのような回路が脳に埋め込まれていることを明らかにした。*3 それは、我々の「共感」する力である。