「ジョブ理論」とは、人がどのようなものを買い、どのようなものを買わないかを“説明”する理論
津田氏は先日『「ジョブ理論」完全理解読本―ビジネスに活かすクリステンセン最新理論』を上梓したばかりである。講演は、ジョブ理論とは何かという基本的な説明から始まった。
春になると、駅で不動産会社が若い人に向けて一人暮らし用のアパートのチラシを配る。新たに大学に入学した人や、就職したばかりの人にとって、そういったチラシは有効だ。また、アメリカのスーパーマーケットチェーン・ターゲットは膨大なPOSデータを活用し、「ベビー用品をたくさん買い始めたから妊娠したのだろう」と購買傾向から顧客の状況を推測し、そこにビッグデータから判明した「妊娠すると無香料の製品等を購入しがちだ」等の傾向を活用してDM送付を行なっている。
こういった、人口統計学的属性情報をもとにしたマーケティング戦略は有効で、よく使われているものだ。ところが、これがうまくいかないケースがある。そのようなケースのソリューションとして生まれたのが、ジョブ理論だ。ジョブ理論とは、人がどのようなものを買い、どのようなものを買わないのかを説明する理論である。
ジョブ理論は、イノベーション理論の第一人者でハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が提唱する理論だ。そのクリステンセン教授のもとに、とあるファストフードチェーンが、相談を持ちかけた。内容は徹底的にデータ分析をしてもミルクシェイクの販売をテコ入れできないというものだ。
クリステンセン教授は、このミルクシェイクを購入する人たちを徹底的に調べ、ある一定の層が朝の通勤時間帯に購入しているということを突き詰めた。そしてその理由は、朝の車通勤の時間が長いために、退屈しないように購入しているとわかった。つまり、ミルクシェイクは「退屈しのぎ」の役目を担うために「雇われている」のだ。
クリステンセン教授の同僚のテッド・レヴィット教授は「人はドリルがほしいのではない。穴がほしいのだ」と言った。ミルクシェイクの経験から、その商品を買うということには、その商品そのものよりも状況が大切だということにクリステンセン教授は思い至った。