トロント大学アグラワル氏が語る、AIが駆動する新たな経済──「予測コスト」の低下によるビジネスの変化

Sansan Innovation Project 2019セミナーレポート Vol.1

 インターネットやITが爆発的な成長を見せた時と同様、私たちの生活を揺さぶる根本的な変化をもたらすと予想されるAI。多くのものの自動化が可能になると言われるが、その具体的な内容は何だろうか。ビジネスレベルで考えた場合、何をすれば良いのだろうか。3月15日に行われた「Sansan Innovation Project 2019」では、その鍵となるアイデアを、トロント大学ロットマン経営大学院教授で創造的破壊ラボ創設者のアジェイ・アグラワル氏が語った。その講演の内容を紹介する。

[公開日]

[講演者] アジェイ・アグラワル [取材・構成] フェリックス清香 [写] 和久田 知博 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] AI・機械学習 事業開発 企業戦略 意思決定 自動化 予測

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AIがもたらすものは「予測」コストの低下である

 アグラワル氏は講演の冒頭、「多くの人が、『今のAIは1995年にインターネットに感じたものと似ている』と言っています」と切り出した。インターネットはそれ以前にもあったが、1995年にWindows95が誕生し、96年頃から爆発的な飛躍を見せたのだ。その時には多くの人がインターネットを「新しい技術」ではなく、インターネットによって「新しい経済」が生まれると話し始めていた。今のAIと非常に似た状況である。

 新しい技術が普及してくる時に起こるのは、「何かのコストが下がる」ということである。インターネットが普及した時に下がったのは「検索」と「通信」のコストだった。それによってデジタルで商品をやりとりするサービスが増えた。半導体という新しい技術が普及した時には「計算」のコストが下がった。

 何かの特定のコストが下がると、今までそれを使っていたところが、もっと使うようになるだけでなく、今まで使っていなかったところにも使われるようになる。たとえば半導体の普及によって「計算」のコストが下がった時には、NASAや政府機関等、今まで計算を多用していたところが半導体を使い始め、計算量を増やしただけではなく、例えば今まで化学的な処理を行なっていた写真を、半導体を使って計算で行うものにするという変化が起こった。つまり、デジタル化したのだ。写真がデジタル化しただけではない、銀行業界も、音楽業界も同様の発想で「計算」を多用するようになってデジタル化したとアグラワル氏は主張する。

 では、AIが普及すると下がるのは、なんのコストだろうか。それは、「予測」のコストだという。機械学習によって様々な予測が瞬時に間違いなくできるようになると、「予測」のコストが下がっていく。それが、AIがドローンやロボット、VRとは全く違ったレベルで注目を集める理由である。「予測」のコストが下がると、半導体が計算のコストを下げた時と同様に、さまざまな業界に変化が起きるのだ。

 では、その変化とは何なのだろうか?

アジェイ・アグラワルアジェイ・アグラワル氏(トロント大学ロットマン経営大学院教授)
専門は経営戦略とアントレプレナーシップ(企業家精神)。同校に創造的破壊ラボ(CDL)を創設し、IT戦略や科学政策、起業ファイナンス、イノベーションの地理的条件に関する研究を行なっている。AI・ロボティクスを開発するキンドレッド社の共同創設者。同社は人間と同等の知能を持つ機械の構築をミッションに掲げている。ブリティッシュコロンビア大学で戦略学と経済学の博士号を取得。著書に『予測マシンの世紀: AIが駆動する新たな経済』がある。

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