質よく充実した既存の交通インフラがMaaS実現を阻む
───これまで3回にわたって、MaaSによって拓ける新たな社会のイメージにワクワクするお話をうかがってきましたが、いざ日本で実現に向けてとなると課題も多いのでしょうか?
MaaS Tech Japan 代表取締役 日高洋祐氏(以下、敬称略):日本国内におけるMaaS実装となると、いろいろ課題は多いですね。
まず1つめは事業者の数の多さです。MaaS先進国と言われるフィンランドでは交通サービス事業者数が少なかったので、比較的容易にMaaSを普及できたのですが、日本の自動車業界は、トヨタや日産など世界にも進出するほどの大企業がいくつもあります。電車やバス、タクシーもそうですね。事業者がとにかく多くて、それぞれが独自のシステムをもっていることが多いです。
そして、2つめとしてはその多くが民間会社として成り立っていること。日本は戦後の経済復興を一定程度民間に任せることによって推進してきた側面があり、現在も民間企業によって公共インフラが維持されています。きちんと整備されていて、黒字で運営されていることが多い。
となれば国がいくらMaaSのプラットフォームに統合しようとしても、自社に利益構造と一致しないと簡単には統合状態に移行してくれない可能性がありますし、その判断は正しいものと考えます。海外等公共交通には補助金や税金が投じられいるケースにおいては、地域や国が判断すれば、比較的合意形成は可能となりMaaS統合もやりやすい状態と言えるかと思います。
──ユーザー側にも問題がありそうです。新しいプラットフォームに乗り換えようとする時、どれだけのメリットがあるのか懐疑的ですよね。
日高:そう、まさにそれが3つめです。ユーザーが現在の交通インフラに大きな不満を持っていないのは、幸いでありながらMaaSにとってはマイナス要素ともなりえます。交通事情や交通サービスに恵まれていることはユーザーには良いことですが、海外ではタクシーの品質に不満があったからこそUberの普及が早かったという話もあります。
自家用車の保有率が高く、なおかつタクシーのクオリティもまずまず高い。時間も正確で安全性も高く、コスト的にも不満があるわけではない。スイカなどのICカードも十分に普及しています。となれば、なかなかユーザーが新たなプラットフォームを選択するという可能性は低いのかもしれません。
手前で進化しすぎてしまうと、次の進化を躊躇する傾向にあるという話はこれまでもありました。スマホが遅れたのもガラケーが優れていたからといわれ、電子決済が進まないのもクレジットカードが普及していたからと言われています。ゼロから考えて作れる新興国のほうが、スマートシティを作りやすいのは明らかでしょう。新興国では時に「リープフロッグ(カエル飛び)」と呼ばれる一足飛びの技術導入が起きており、MaaSもその傾向があります。実際、自家用車の保有率が低いところほど、ライドシェアのニーズは高いですし。