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人事と経営のジレンマ

「人事のための人事」や「全体一律の人事システム」から事業は生まれない──組織の物語「ナラティヴ」とは

埼玉大学大学院 宇田川元一准教授 × リクルートマネジメントソリューションズ 荒金泰史氏【前編】

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「現場を診断して病人化する」ような課題解決の手法って、「人事のための人事」になってませんか?

宇田川元一氏(以下、敬称略):荒金さんの現在の取り組みを簡単に紹介してもらえますか。

荒金泰史氏(以下、敬称略):私は現在、リクルートマネジメントソリューションズで、管理職向けのマネジメント支援サービス「INSIDES」の開発に携わっています。宇田川先生とは、INSIDESのアドバイザリーをお願いしたのをきっかけに、度々お会いしては事業や組織の在り方について、建設的な議論をさせてもらっていますね。

宇田川:INSIDESは、これまでの組織マネジメントにありがちだった「メンバー全員の意見を平均化して、共通する問題点の改善に取り組んでいく」という手法ではなく、「メンバーひとりずつが個別に抱えている問題に、どうやってアプローチしていくか」に焦点を合わせたシステムになっていますね。荒金さんはなぜ、このような対話的なサービスを開発しようと思い至ったのですか?

荒金:INSIDESを新規事業として担当する前はSPI(総合適性検査)の開発・提供をしていて、日々さまざまな企業の管理職の方々とお話する機会もありました。そこで「自社の組織を変革しなければならない」「けれども、なかなか現場が変わらない」といった声を、毎日のように耳にしていたんです。

 それは、私が自社に抱いている課題意識とも共通していました。社外の方からは「リクルートはいい意味で人の代謝が起きていますね」とよく言われるのですが、うまくいっているケースばかりではないと個人的に感じていたのです。若い社員が十分に成長しきる前に、会社を出てしまうこともあります。そこには、会社と個人の間にちょっとしたすれ違いがあるために、お互いが望む成果を得られていない状況が生まれていたりして。

宇田川:マネジメント層と現場間、会社と個人間でコミュニケーションが足りていないと。

荒金:そういった現状に対して、何かできることはないかと考えていた時に、対話型組織開発やナラティヴ・アプローチといった概念に出会ったんです。ここにHRテックの文脈をかけ合わせたら、従来の人事の枠組みとは異なるアプローチで、経営と組織に対して貢献できるサービスがつくれるのではと思いました。そうして開発したのが、INSIDESです。

宇田川:「従来の人事とは異なる」という言葉がありましたね。荒金さんは「従来型の人事の問題」について、どのように捉えられていますか?

荒金:診断的・分析的アプローチに終始しているケースが、非常に多いのではないかなと感じています。人事の業界では、HRM(人的資源管理:Human Resource Managementの略称)や「戦略人事」などの言葉がよく使われており、「人材をいかに戦略的かつ体系的に管理するか」という観点での取り組みが多く見受けられます。一見それらしく見えるのですが……。

宇田川:まるで、人事のための人事になっていると。

荒金:そうなりがち、なのかなと。さまざまな企業の現状を見ていると、そういった人事の取り組みが進めば進むほど、人事と経営の距離が離れてしまっているように感じています。本来、まず企業の活動指針となる経営戦略や戦術があり、その中でどう人を活かすかは切り離されて考えられるべきではありません人事の目と手が届く範囲だけで“戦略的“であることを目指すのは、「順序が違う」と言わざるを得ない気がしています。

宇田川:既存の人事アセスメントツールの在り方も、従来型の人事の問題を如実に表していると思います。ツールで「従業員のエンゲージメントが低い」と問題がわかっても、結局、人事がその診断結果を持って「マネジャーなんとかしろ」と現場に投げるだけで。

荒金:外側から「問題があること」を指摘するというのは、一見するとそれらしいアプローチに見えますが、根本的な問題の解消につながっていないように感じます。現場から「これってビジネスにとって意味あるの?これで儲かるようになると思うの?」という疑問や反発が上がることが多いのが、よく現状を表していると思います。

宇田川:マネジャーは何をしたらいいかわからない中で、上から「どうにかしろ」と言われ続けていたら、余計に無力感が増すのではないでしょうか。人事も現場のスタッフたちも、状況が変わらないから不満が溜まる。そうやって、上にも下にも被害者意識が増幅していって、組織が痛んでいく。今までの人事の「現場を診断して病人化する」ような課題解決の手法は、組織内で不信感と不公平感を生み出し続けてしまいます。

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