クリステンセン教授が最新刊で語った「マクロ経済」──社会課題解決と市場創造型イノベーションとは?

ブックレビュー(原題: The Prosperity Paradox)

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 ジョブ理論 資本家のジレンマ 市場創造型イノベーション

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無消費経済を対象にする「市場創造型のイノベーション」

タイトル

 経済成長の「秘訣」を導くには、そもそもから理解する必要がある。貧困を脱して「繁栄」することができたのは、ごく一部の地域が享受できている極めて最近のことだということ。今もっとも経済的に発展したアメリカであっても、150年前は、現在のモンゴルやアンゴラよりも貧しいかったのだ。この事実を知れば、貧困を脱して豊かになることが、いかに一部の国だけに与えられた幸運だかわかるはずだ。“Prosperity Paradox”では、この幸運が訪れたアメリカ、日本、韓国の事例を分析する。

 今でこそアメリカは超大国として知られているが、元は荒野の広がる大陸に移民が移り住んだだけの国でしかなかった。前述したように、150年前は貧困にあったのだ。つまり、アメリカの例は、他の国々が成し遂げることのできなかった経済成長の「メカニズム」を理解する上で重要になる。

 クリステンセン教授は宣教師として韓国に住んでいた経験もあり、韓国通としても知られている。また4年前、氏が来日した際に、日本経済の発展ぶりを目の当たりにし、第二次世界大戦と朝鮮戦争から復興した両国の成長ぶりに感嘆していたことが思い出される。

 さらに、反例としてメキシコを取り上げる。メキシコは、アメリカに隣接しており、大量の投資を受けることができているにもかかわらず、日本や韓国のような発展がみられなかった。

 国が発展する歴史の中で、大きな役割を果たしているのが「イノベーション」である。アメリカはシンガー社のミシンやT型フォード、日本はホンダに代表される自動車産業の勃興が経済発展に大きな役割を果たしている。未成熟な国で生まれたイノベーションは、いずれも「無消費」の市場を対象にしているという共通項がある。

 例えば、T型フォードを購入した市民は元々、自動車を消費していた人たちではない。実際に、T型フォードが登場する前約2万台しかなかったアメリカの自動車市場は、わずか13年で100倍の200万台へと成長した。「市場創造」をするために、フォードは単にお手頃な価格の運転しやすい車を開発しただけではない。フォードはガソリンスタンドや、製造拠点間をつなぐ鉄道、さらには高度な広告宣伝技術に積極的な投資を行った。

 新しい市場を作り出そうとすれば、ビジネスモデル全体を構築する必要があるのだ。事業発展のために作られた鉄道やガソリンスタンドなどのインフラは、まさに国家発展の象徴である。フォードは自動車の製造ラインで働く従業員がフォード車を買えるように給料を決め、買って出かけたくなるように休日を設定したという話もあるが、雇用を生むことは消費を生む。さらに新たな市場が誕生することで、周辺の雇用も次々と生み出すことがわかっている。

 クリステンセンは次のように語る。ちなみに、個人的な感想になるが、この言葉が本書で一番に心に響いた。

市場創造型のイノベーションに投資することは、取りも直さず国作りに加担している

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