クリステンセン教授が最新刊で語った「マクロ経済」──社会課題解決と市場創造型イノベーションとは?

ブックレビュー(原題: The Prosperity Paradox)

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 ジョブ理論 資本家のジレンマ 市場創造型イノベーション

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貧困対策では貧困を脱することはできない──貧困と繁栄のメカニズムとは

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世界はどのようにしてもっと「豊かに」なれるのだろうか?

 極度の貧困地域の住人は、飲み水すら確保できないことがある。村から何時間も徒歩で水を汲んで生活をする人たちが実際にいる。すると、私たちは村に井戸を掘ればよいのではないかと考え、その村に井戸を掘る。あるいは、井戸を掘るような慈善団体に寄付をする。

 実際に、“Prosperity Paradox”の共著者エフォサ・オジョモは、自ら行動を起こすことを決意し、Poverty Stops HereというNPOを立ち上げると、30万ドルの募金を集めアフリカに井戸を掘った。ほとんどの慈善団体が資金集めに苦労する中、大成功だと言ってもいいだろう。

 しかし、オジョモ氏の善意と行動力にも関わらず、やがて井戸は次々と壊れてしまう。修理も試みたが、現地には修理できるような技術者もいないため、放置せざるを得ない。実はアフリカ中に壊れた井戸は5万個もあるという。5万個というのは実にアフリカ全体の8割の井戸に相当する数だ。

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 井戸があれば水が得られるという発想は、とてもロジカルでだれもが賛同しやすい道筋かもしれないが、これでは問題は解決しないとクリステンセンらは語る。先進国がよかれと思って作った井戸は現地の人間には使えこなせないもので、維持させることができないものになってしまうという。井戸を掘るといった一時的な対策では、貧困を脱して繁栄することはできないのだ。

 人類初の有人飛行機を発明したライト兄弟以外にも、多くの勇敢な人たちが空を自由に飛ぶことを目指した。彼らはすでに空を飛んでいた鳥を観察し、以下のようならロジックを組み立てた。

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 彼らは腕に大きな鳥の羽のようなものを取り付け、腕をバタバタと羽ばたかせながら高いところから飛び降りた。もちろん、飛行に成功したものはいない。むしろそのチャレンジで命を落とした者も多い。失敗した勇者らは、羽の有無と飛行の「相関」から飛ぶための「秘訣」を導いたが、現代に住む私たちには明らかな誤りだと理解できる。羽の断面が揚力を生み出す「メカニズム」を理解して初めて、再現性の高い飛行が実現するにもかかわらずだ。

 しかし、こと貧困対策については、相関関係から「秘訣」を導いてしまっている。例えば、アメリカだけでも途上国の貧困対策に4兆ドル以上を費やしてきたが、世界で20カ国以上が50年前と比べると、以前より貧しくなっているというデータがある。

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