ジョブ理論に基づいた、雇用される「社会課題解決」とは
人が新たな解決策を取り入れるには、新たな解決策が提示する「魅力」は当然だが、過去の実績や信頼できる人から勧められることによって「不安」を低減することも重要になる。「解決策の魅力」と「解決策への不安」が「現状の不満」と「既存の習慣」を上回ることで、新たな解決策が「雇用」されるという、下図のような4つの力のバランスを考えてみることをお勧めする。
これら4つの力と4つの障害は、ジョブ理論の実践手法である「JOBSメソッド」においても重視している。このフレームワークは“見えない市場”を見えるようにするためには、知っておいて損はないだろう。(詳細はこちらの記事にも紹介しているので、実践的に興味のある方はぜひご参考にして頂きたい)
“Prosperity Paradox”には、国の発展とともに、政治が透明になり汚職が減る過程が示されている。経済的に貧しい国は治安が悪い。先進国のような警察や法律を設置したところで、違法行為がはびこる。なぜなら、住民には法律が施行される前から成し遂げたいジョブがあり、賄賂を支払う方が期待した成果が得やすいためだ。
日本においても、一時期「治安維持」のために用心棒を雇うほうが、身の安全を確保できた時代があった。次第に市民の収入が増え納税額が増えてくると、警官に十分な給料を支払えるようになり、わざわざ賄賂や用心棒代を支払うことが無駄になってくる。警官にとっても、十分な給料をもらえる職業を失う危機を避けることのほうが合理的になる。
発展途上の国に先進国の仕組みをそのまま「押し付ける」ことは井戸を掘るようなもので、活用も維持もされないまま放置されかねない。いかに善意に満ちた思いであっても、現地の「状況」に適さない解決策は雇われることがなく、問題が解決されるどころか問題をひとつ作り出すことにもなってしまうのだ。
法律や行政サービス、ハコモノも住民のジョブが存在して初めて「雇われる」と考えると、どのような解決策が有効なのか見えやすくなるだろう。ジョブ理論を法律や行政サービスにも適用すると無駄な公共投資は減るのだ。
“Prosperity Paradox”は、クレイトン・クリステンセン教授のこれまでの理論を応用しつつ、さらに国家レベルにまで発展させた多くの論点が含まれている。しかも、日本をはじめとした事例を挙げながら、地域の繁栄を目指す上でのパラドックス、つまり反直感的なやり方をわかりやすく紹介する。クリステンセンを「経営学者」としてビジネスの文脈でしか知らなかった方々には、ぜひこの機会に本書を読み、一緒に「繁栄」を目指して頂きたいと感じた。