クリステンセン教授が最新刊で語った「マクロ経済」──社会課題解決と市場創造型イノベーションとは?

ブックレビュー(原題: The Prosperity Paradox)

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 ジョブ理論 資本家のジレンマ 市場創造型イノベーション

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イノベーションの種類により異なる、投資の意味合い

 国家の繁栄に結びつく市場創造型のイノベーション以外に、どのようなイノベーションがあるのだろうか? 3種類のイノベーションがあるとクリステンセンは説明する。

 企業が新商品をラインナップに増やしたり、現行品を改良するようなイノベーションを「持続的イノベーション」と呼ぶ。この概念は氏の『イノベーションのジレンマ』で紹介された既存企業が追求する戦略として有名だ。「効率化イノベーション」は、企業の内部努力として行われるイノベーションであり、いわば業務効率化である。業務効率化は、コスト低減と利益率向上につながる。

タイトル

 日常的にはこれらの3つのイノベーションをあまり分けずに語ってしまうが、投資という観点では大きく意味が異なる。

 効率化イノベーションは、設備や仕組みの導入といった形で行われることが多い。設備導入によって節約できるコストは計算され、明確な投資対効果があり、判断が易しいイノベーションである。

 持続的イノベーションは、顧客から製品・サービスの改善要望が発端になることが多い。あるいは、競合他社との競争に勝つか、遅れないためのイノベーションである。投資対効果の数値化は困難だが、次の市場創造型イノベーションと比べると判断しやすい投資である。

 市場創造型イノベーションは、もっとも投資判断が難しい。存在していない市場に向けて製品を開発するというのは、あまりに不確実でリスクが大きいからだ。

 したがって、市場創造型イノベーションへの投資は後回しになりがちだ。大きな市場を生む可能性があったとしても、見えない顧客、存在しない市場に向けた事業への投資は危険にみえる。勇敢な投資家がいたとしたとしても、周囲への説明を合理的に行うのは困難だ。一方で、新しい設備導入によるリターンが明確な投資は合理的でコンセンサスも得やすい。

 これはクリステンセン教授が4年前の来日講演時にも触れた「資本家のジレンマ」である。政府をはじめとする大きな組織でコンセンサスを重視すると、市場創造型イノベーションへと資源が配分されないのは、イノベーションの種類を考えれば当然のこととも言えるのだ。

 効率化イノベーションへの投資により、市場創造型イノベーションへの投資金額が減ってしまう。さらに、効率化イノベーションには雇用にも負の影響を及ぼす。

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