クリステンセン教授が最新刊で語った「マクロ経済」──社会課題解決と市場創造型イノベーションとは?

ブックレビュー(原題: The Prosperity Paradox)

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 ジョブ理論 資本家のジレンマ 市場創造型イノベーション

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効率化イノベーションによって失われる雇用、市場創造型イノベーションで生まれる雇用

タイトル

 世界中の政府が雇用創出に躍起になっているが、2つの雇用タイプを分けて考えることが重要になる。1つは「グローバルな雇用」である。英語を話して世界とビジネスをする、という意味ではなく、むしろ世界中のどこででも行うことができる労働を指す。多くの製造業務がこの部類に入る。例えばTシャツ製造の作業員は、バングラデシュで行おうが、ニカラグアで行おうが大きな違いはないため、グローバルな雇用と呼ぶ。

 もう一つの「ローカルな雇用」は、市場創造型イノベーションの結果誕生する製品・サービスを顧客に届けるため必要になる仕事を指す。Tシャツの例で言えば、市場でTシャツを売るために必要なデザイン、営業、マーケティング、顧客サポートなどの業務が相当する。

 グローバルな雇用は、世界中どこでも行うことができるという性質から、低賃金という形で差別化される。つまり、効率化イノベーションによって失われる可能性の高い雇用なのである。機械化によって単純労働が減ったのは、効率化イノベーションによってグローバルな雇用が減った一例と言える。アメリカの隣国メキシコでは、自動車やエレクトロニクス関連の生産工場に大々的な投資が行われた。雇用を生んで地元が潤ったのは束の間、さらに賃金の低い地域へと仕事が流れたり、国の補助金などを目当てに国内生産へと戻したり、自動化や効率化で雇用がいとも簡単に減る。グローバル雇用とは響きばかりで、移転されやすい雇用という性質を持つ。

 他方の市場創造型イノベーションは、事業が立ち上がるとともに周辺にインフラを「呼び込む」性質がある。例えば日本のオートバイ産業は、輸入オートバイを購入できない潜在的な市場を掘り起こしながら発展した。「原動機付き自転車」というオートバイ未満の破壊的イノベーションが顧客層を拡大し、月賦での購入を可能にするなど、周辺の金融業も進歩する。

 このように、波及的に他の産業も成長させるのが、市場創造型イノベーションの特徴である。「無消費」をターゲットにした投資は、成功すれば多面的な繁栄をもたらす。単純に呼び込みやすい投資は、定着しづらい投資でもある。Easy Come, Easy Go。日本の地方活性化においても、市場創造型イノベーションの考え方は有効なはずだ。

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