クリステンセン教授が最新刊で語った「マクロ経済」──社会課題解決と市場創造型イノベーションとは?

ブックレビュー(原題: The Prosperity Paradox)

 『イノベーションのジレンマ』で一躍イノベーションの大家として名を上げたハーバード・ビジネス・スクール クリステンセン教授の最新刊が出版された。題名は“Prosperity Paradox”、訳せば「繁栄のパラドックス」だ。主題は国としての繁栄や貧困からの脱却といったマクロな経済学を扱うものだ。だが内容は抽象的な経済論とは一線を画す。本書では前作の『ジョブ理論』で著者が語った、人の根源的な欲求を経済活動へと転換する理論や、『イノベーションのジレンマ』で初めて導入された「破壊的イノベーション」による市場創造、「持続的イノベーション」にだけ投資することの危険が改めて語られている。
 本書では、医療や教育といった一部の行政サービスにとどまらない、「暮らしを豊かに進歩させる」というだれもが持つ目標に近づくための示唆が数多く含まれている。数多くの示唆からいくつかをピックアップしてご紹介したい。

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] 事業開発 企業戦略 ジョブ理論 資本家のジレンマ 市場創造型イノベーション

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「マクロ経済」を扱ったクリステンセン教授の最新刊

 ビジネスマンの読者には、ビジネス文脈で語られた「ジョブ理論」「イノベーション」のクリステンセンとして、イノサイトを共同創業し、数多くの企業をイノベーティブな組織へと変革した成果に馴染みがあるかもしれない。

 近年、クリステンセン教授は、公共政策の文脈でも数多くの実績を挙げている。クリステンセン・インスティテュートを設立し、公共政策のシンクタンクとして研究を重ねている。著書『医療イノベーションの本質』では医療システム、著書『教育×破壊的イノベーション』では教育システムについての洞察と提言を行っているのは、彼の研究から生み出された一部の成果でしかない。

 クリステンセン教授の新刊のポイントを解説する前に関連する書籍を紹介しよう。ベストセラーとなっている『FACTFULNESS (ファクトフルネス)』だ。著者のハンス・ロスリングは、統計データから世界を眺め、いかに私たちの知識にバイアスが掛かっているか、警鐘を鳴らす。センセーショナルな画像や物語、ステレオタイプな情報、といったものが私たちの正常な判断を狂わせるのかを知らされる内容だ。副題にあるように、「賢い」人ほど、さまざまな情報によりバイアスが掛かりがちだ。

タイトルFACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、他・著 / 日経BP社・刊)

 著者は、バイアスに気づき、正しい事実をインストールして知識をアップデートすることを読者に期待する。だが、私たちがインストールするべきなのは事実だけではない。「理論」と「行動パターン」も新たにインストールするべきだと“Prosperity Paradox”は教えてくれる。

 例えば、ハンス・ロスリングは『ファクトフルネス』では、

世界には50億人の見込み客がいる

と述べている。

 そこにクレイトン・クリステンセンは、どのようにして「見込み客を見つけるのか?」、どのようにして「見込み客を顧客にするのか?」という問いに答えてくれる。『FACTFULNESS』を読んで気づきを得た方は、“Prosperity Paradox”からも得るものが多いと感じるだろう。もちろん、経済政策の立案者や政治家、さらに社会起業家に向けた本ではあるが、多くのビジネスマン、特に投資家や新市場の開拓を志す起業家に多くの示唆があるはずだ。

 数多くのメッセージの中でも、以下の3つのポイントについてご紹介しよう。

  • 対症療法には限界があり、問題の「メカニズム」に対処する必要がある
  • 国や地域の発展には市場創造型のイノベーションが必要である
  • 先進国にある物事を、未発展の国々に「押し付ける」ような政策は成功しない

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