アフターデジタルで生き抜くヒントとなる「OMO」とは?
従来のビジネスモデルでは太刀打ちできない、アフターデジタルの世界。
この世界で生きていくためのヒントとなりうるのが、中国で成長する企業に見られる「OMO(Online Merges with Offline)」だ。オフラインとオンラインを行き来するO2Oに対し、OMOはオフラインがオンラインを包み込んだ世界、つまりオンラインとオフラインは一体であると考える。
その事例として挙げられたのが、中国の大手保険会社・平安(PINGAN)保険である。一般的な保険会社と同様、属人的な従来型のサービスを展開していた同社は、金融商品の先行きを懸念し、2013年頃から大きく経営方針を転換。「デジタルを使い、顧客の生活に入り込む」戦略へ舵を切ったのだ。
そして着手したのが、デジタルサービスの開発と運営である。カテゴリーを、医療・移動・娯楽・住宅・金融に定め、生活領域で発生する顧客のペインポイント改善に注力。これまでに、20個以上のデジタルサービスをリリースしてきた。その中でも特に大きく成功しているサービスが、チャットで医師と健康相談ができる「平安グッドドクターアプリ」(以下、グッドドクターアプリ)だ。ダウンロード数・約2億、MAUが6,000万人と、桁違いの規模を誇る。
かつて、「病気で病院を受診するのに数日待ち」といった状況が発生していた中国において、数分以内に医師からチャットで健康相談の回答が得られるグッドドクターアプリは、大人気です。また、相談だけでなく、通院が必要な場合は、アプリから来院予約もできます。さらに、各種サービスで使用するポイントが貯まる、ウォーキングプログラムも備わっています。つまりそれは、病気の時だけでなく、ユーザがアプリを毎日利用するサイクルが設計されているのです。
チャットによる健康相談は解析され、顧客情報として蓄積される。すると、例えば子供の病気で通院することになった場合、そのユーザーが平安保険の顧客ならば、「保険のサポートが使える」と、フォローコールがあるのだという。
「平安保険への顧客満足度は高く、保険のセールス担当者を“良い情報を届けてくれるアドバイザー”として受け入れている」と宮坂氏。つまりグッドドクターアプリは、顧客との継続的な接点、かつロイヤリティを高める接点となっているのだ。
また、グッドドクターアプリは、平安保険のマーケティングやセールスにも変化をもたらした。6,000万人のMAUと日々繋がり、顧客の状況に合わせたアプローチのほうが効率的と、テレビCMを止めた同社。さらに、セールス担当者のKPIには、顧客に向けたアプリのダウンロード数が含まれる。「アプリからデータが集まることで、保険商品の提案がしやすくなるそうです。デジタルで効率化を図るコスト削減のDXではなく、人の良さを生かし、顧客価値を高める手法は、OMO型らしい仕組みです」と、宮坂氏はその利点を強調した。