テクノロジーが新しい市場や世界観を作り出している東南アジア
蛯原健氏(リブライトパートナーズ 代表取締役、以下 敬称略):丸さん、今日はよろしくお願いします。
丸幸弘氏(株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO、以下敬称略):よろしくお願いします。『テクノロジー思考』、読ませていただきました。僕の本とメッセージが共通しているというか、兄弟なんではないかと思ってしまったぐらいに、課題意識が近いなと思いました。
蛯原:お互いに近しい活動をしていますからね。丸さんがアジアのスタートアップ企業に注目したのはいつ頃ですか?
丸:シンガポールに会社を作って事業を始めたのが2010年ですが、リバネスの活動の合間に個人的なエンジェル投資やリアルテックファンドでのベンチャー・キャピタルとして活動するようになったのはもっと後ですね。リー・クアンユーが亡くなった2015年、ドナルド・トランプの登場やブレグジットの行方が話題になった2016年あたりから、「アジアが動き始めている」と感じたんですよね。
実際、その頃にシンガポールに行くとタクシーではなくGrabが一般的になっていて、フィリピンでは日本人の駐在員向けに商売をしていたレンタカー屋が潰れていったんですよ。彼らはレンタカー屋がダメになったら、今度は日本人向けのラーメン屋やたこ焼き屋を始めて成功していたりするのが面白いところですが(笑)。
蛯原:インドネシアもジャカルタに本社を置くスタートアップでライドシェアと物流に注力する「GOJEK*1」が出てきて移動が楽になりました。タクシーに乗っていた頃は言葉が通じなくて目的地にたどり着けなかったり、ちゃんとメーターを見ておかないとぼったくられたりしましたからね。アプリで車を呼べば確実に目的地に行けるというのは革命的です。
丸:東南アジアは今まさに、テクノロジーが新しいマーケットや世界観を作り出しているところですね。
蛯原:東南アジアでは、アクセラレーションと投資をされているんですか?
丸:そうですね。日本を含め「テックプランター*2」というアクセラレーションをやっていて、東南アジアだけでも毎年200くらいのスタートアップが生まれているので、その中で面白いところに少額の投資をし、育成しています。
リバネスの基本的な事業は、我々の「知識プラットフォーム」を主に大企業をはじめ、大学、ベンチャー、中小企業、町工場、政府に提供して役立ててもらうことです。その一環で、新規事業の育成プログラムを開発したり、大学からライセンスを持ってきたり、知財をグローバルで取得したりというファンクションを持っているので、僕らが支援するシード期のスタートアップにはそれらを無料で提供するんです。
東南アジアでは国が大学発のベンチャーを作る予算を持っているので、僕らは各国の政府と組んで育成プログラムを提供しています。インキュベーションやアクセラレーションのプロとしてやっていくというよりは、もう一階層、別のレベルのエコシステムを作って社会を底上げしていくということをやっているので、半分ボランティアみたいなものですよ。
リバネスというのはLeave a Nest、つまり「巣立つ」という意味です。僕らが鳥の巣とも言うべきプラットフォームの部分を作ることで、スタートアップが創業しやすい状態や投資が進みやすい仕組みを作り、いろいろな人の巣立ちを応援したい。すごくユニークで儲からないポジションをやっているのは、そういう思いがあるからなんです。
蛯原:素晴らしい!
*1 GOJEK
*2 テックプランター:リバネスによる、起業前の個人・ベンチャー企業を対象とした、リアルテック領域の事業シーズを発掘・育成する取り組み。