共同事業における対立を防ぐには?
本書で提示される対応策のうち、基本的なものをいくつか紹介したい。
1:イノベーションへのリソース配分は、1つのプラン、1つのプロセスを通じて行う
対立を招くのは「CEO予算を配分してくれた。人員はイノベーションの責任者が各部門の責任者と交渉する。IT部門から1人、製造部門からも1人」といった場合だ。リソース配分の決定がばらばらに行われ、その都度プロセスを調整しなければならない。
「予算は確保できたが他部門の協力を得られず話が進まない」というケースを著者も直接耳にしたことがある。あからじめ1つの文章、1つの手続きによって一貫性をもたらすことが対立の解決に有効だ。
2:事前に緊急事態に備えて対策を考えておくこと
イノベーションの取り組みは不確実性が高いため、当初配分していたリソースは多すぎるか少なすぎるかのどちらかになる。たとえば、大ヒットを見越してオペレーション側のスタッフも増やしたが「まったく当たらなかった」ということが起こりうる。もしくは、控えめに考えていたが予想外の市場創造につながり、スタッフが追いつけない状況になる場合もある。
いずれの場合にせよ、協力を頼んだオペレーション側のスタッフには迷惑をかけてしまうことは間違いない。「状況がこうなったら、〇〇のように対応したい」といった形で、事前に話し合いをしておくべきだ。
問題がある前に問題を話し合う
著者がシリコンバレーを訪問した時に、印象に残った話は「イノベーションを起こす前に、まず利害関係者全員を集めて話し合いを行う」というものだった。まさに本書で紹介されていることを、当たり前のように実践しているわけだ。
もちろん、事前の話し合いですべてが解決するわけではない。それでも「1つのプランを1つのプロセス」で共有することで一貫性が生まれる。さらに「不測の事態にそれぞれどんな対応をするか」と相互理解ができていれば、感情的な理由でスタッフの協力を得られなくなる危険性を減らすことができる。
「そんな余裕が無い」という状態の組織もあるかもしれない。しかし、最初に数時間の共有をしなければ、後々になってその10倍も20倍も「部門間の対立」に時間をとられることになるだろう。
本書に理論的な面白さはない。しかし、本当にイノベーションを実現したい組織が「知っておくべき課題と対処法」が最初から最後までぎっしりと書き込まれている。ぜひ読んでみて欲しい。