登壇者紹介
- 加藤 浩一郎氏(金沢工業大学虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科 専攻主任・教授)
「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」が示すこと
「米国S&P500社の企業価値のうち、無形資産が生んだ価値の比率は1975年から2015年までの40年間で17%から87%に増加しています。さらに近年では各社はイノベーションを重視し、モノづくり売りからコトづくり、あるいはサービス化といった事業の付加価値や差別化の源泉が拡大・移行していくなかで、知財戦略とは何かを改めて考えなければなりません」
ウェビナー冒頭の基調講演で、金沢工業大学虎ノ門大学院の加藤浩一郎氏はこう話し、特許庁総務部企画調査課特許戦略企画班とともに調査を進め、2019年に「経営における知的財産戦略事例集」、2020年に「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」として結果をまとめたことを紹介した。
同様の調査は2007年にも行っている。その当時、特許庁の事例集にて取り上げた内容は、クローズドな「研究開発成果の権利化」といった観点を中心として、知的財産の創造・保護・活用という知的創造サイクルの流れに即した活動にフォーカスされていた。そしてこれらの内容に関して2019年に調査した結果、出願・権利化やリスク管理を中心に多くの企業が重視し、比較的実施もできている状態であるとわかった。しかし、オープンイノベーションのなかでも求められる「オープン&クローズ戦略」「戦略企画機能の充実」「IPランドスケープ」などといった、権利活用のための戦略的な活動は、当時の事例集では十分に取り上げられておらず、いまだ重要度や実施度が低いという状況が明らかになった。
そこで、2019年は「新規事業創造に資する知財戦略」と「経営戦略の構築・実行の高度化に資する知財戦略」の2つの観点で先進企業56社の事例を集め、各社の「戦略上の力点」を紹介することに重きを置いた事例集を作成した。さらに、2020年では知財戦略を構築・実行する具体的・実務的なプロセスを中心に、23社の詳細な情報を取りまとめて収録している。
多くの企業が、クローズドなリニア型の研究開発だけでなく、オープンイノベーションの本格的な採用期を迎えており、事例はそれに資する知財戦略を持っている企業ばかりだと加藤氏は説明する。
さまざまなところで聞かれるように、今後の日本企業の発展のために、イノベーションは必要条件である。それを考えると、今までは現時点での事業・研究開発に力点をおいた知財活動は、今後は経営計画の策定・実行、将来構想までを見越し、より積極的に「経営」に貢献する戦略的な活動になっていくべきである。加藤氏はこう主張し、基調講演を締めくくった。