拠り所になる“言葉”が組織を強化する
永井恒男氏(以下、敬称略):私自身、駆け出しの頃から会社の飲み会を設定する際など、「ぐるなび」には大変お世話になってきましたので、お話をお聞きできるのを楽しみにしておりました。まずは今春、「食でつなぐ。人を満たす。」というパーパスが策定された経緯についてお聞きしてもよろしいですか。
杉原章郎氏(以下、敬称略):私が社長に就任したのは2019年6月のことで、まず着手したのは、会社のことをもっと知ることでした。もちろん、経営データなどはあらかじめ把握してはいましたが、業績が低迷する中においては、数字ではわからない部分こそが問題であり、全国の営業所を行脚することから始めました。
多くの社員と対話したことで、ぐるなびで働いている人材は皆、飲食が心から好きな人ばかりであることを実感しました。そこで状況を打開するためには、食をエンパワーメントしたいと考えている彼らの力をもっと活かすべきだと感じたことが、今回のパーパス策定につながっています。ぐるなびが何のために存在し、社員一人ひとりが何のために働くかという存在意義を見直すことで、組織としての絆を強化することが目的でした。
永井:ちなみに楽天時代のご経験は、何らかの形で生かされていますか?
杉原:思い返してみると、パーパスマネジメントに近いことを楽天時代も行っていました。たとえば、ぐるなびでは進化のDNAを組織内に浸透させるため、「4つの進化」を毎朝朝礼で全員が唱和する習慣がありましたが、楽天でも似たようなことを行っていました。正直に明かせば、その効果について当初は私も懐疑的でしたが、毎朝口にする言葉というものは否が応でも行動に影響を与えるもので、組織の在り方に少しずつ変化を与えていく様子を体感したことが、新理念体系策定のベースにあると思います。やはり、拠り所になる言葉を持つのは大切なことですから。
永井:なるほど。言葉が持つ力を再認識したうえでパーパス策定に取り組んだということですね。
杉原:そうですね。コロナ禍によって対面で議論をする機会が減ったことで、かえって会社の存在意義を熟考する時間が生まれたのも、今にして思えば良かったのかもしれません。平時であればおそらく、社内で顔を突き合わせて、すぐに決めてしまっていたでしょうから。