なぜプロトタイピングでは“誰もが異なることを期待している”のか
プロトタイピングを実施する上での難しさのひとつに、プロトタイピングについての認識に関する乖離が発生しやすいことが挙げられます。例えば、以下のように、事業開発を進めている際のAさんとBさんの会話のひとコマを見ていきましょう。
Aさんが、「とりあえずプロトタイピングしてみませんか?」という。それに対してBさんが「いや、プロトタイピングはある程度検証する仕様を固めてからでないと、時間の無駄になっちゃう可能性もあるのではないでしょうか?」と返す。 それに対してAさんが「うーん、とりあえず仕様とかいいので、認識がズレているかもですし、手を動かすことが重要だと思いますが」とさらに返します。
このやり取り、少しすれ違っている、いや大きくズレてしまっています。しかし、このようなやり取りは実際のプロジェクトでもよく発生することなのです。
「誰もがみんな、プロトタイピングについて異なることを期待している」
IBMでUX Design Leadを務めたStephanie Houdeさんは、1997年に発表した論文[1]の中で、上記のように述べています。
プロトタイピングはエンジニアリング分野からはじまり、デザイン分野でも用いられるようになった影響で、エンジニアリング分野とデザイン分野で定義や手法が少しずつ異なります。
だからこそ、「誰もが異なることを期待」しており、認識が乖離しているのです。彼女が指摘した内容は、上記のAさんとBさんのやり取りを想起させるのではないでしょうか。
認識の乖離を防ぐための「開発プロセス」という視点
このようなプロトタイピングについての認識の乖離を防ぐためには、ふたつの視点を持っておくべきだと考えています。それが、「開発プロセス」と「分類」です。
まずひとつ目の視点が「開発プロセス」です。開発プロセスとは新規事業を構築する上でのプロセスをまとめたもので、本項では例として以下のような開発プロセスを用います。
アイデアを考えてコンセプトを決め、設計をして結合をして生産、市場投入、というものですが、これは先行研究をベースに整理したもので、あくまで一例です。ここで重要なのは、「開発プロセス」という視点を持つことであって、上記のプロセスの意味合いではありません。当然、アジャイル型のプロセスもあれば、市場投入した後のメンテナンスが重要なプロセスもあります。そこは、それぞれのプロジェクトに最適化したもので考えください。ここでは、「開発プロセス」という視点を持つことを意識していただければと思います。
[1]Stephanie Houde and Charles Hill「Handbook of Human-Computer Interaction (Second Edition) Chapter 16 - What do Prototypes Prototype?」(North-Holland,1997,Pages 367-381)