ドラッカーのイノベーション思想に通ずる「Xゼロの変革論」
宇田川氏は、対談タイトルにある「Xゼロ」という耳慣れない言葉についての解説から話を始めた。いわく「Xはトランスフォーメーションのこと」だという。
最近はデジタル・トランスフォーメーション(DX)、コーポレート・トランスフォーメーション(CX)など、「○X」という“各種変革”が語られることが多い。それでも日本の企業社会がなかなか変わらないのは、「自分なりに頑張ってやってみよう」という自発性が芽生えていかないという問題が大きいのではないか。そしてそれは、「今行われている変革」と「本当に必要な変革」がずれているからではないか、と宇田川氏は言う。
この数十年の間、大手企業の業績はなだらかな右肩下がりを続けてきて、あるときに破壊的イノベーションにさらされるなどして急激に悪化することがある。そうなって初めてV字回復を目指す企業変革が始まり、成功すればセンセーショナルに取り上げられることも多い。しかし本来は、病気での急性期を迎える前の段階、業績がゆるやかに悪化し続ける慢性疾患の段階に変革のニーズがあるのではないか、大規模な変革を伴わない「Xゼロの変革」というものが必要ではないか、というのが宇田川氏の主張だ。
宇田川氏は、ドラッカーが『イノベーションと企業家精神』(P.F.ドラッカー著 上田 淳生訳 ダイヤモンド社)の中で語った以下の言葉を引用する。
「イノベーションに成功するものは保守的である。保守的たらざるを得ない。彼らはリスク志向ではない。機会志向である」
つまり、日々起きる小さな問題や小さなギャップ、小さな気付き、そういうものにちゃんと向き合い、取り扱っていく中で、大きな変化(イノベーション)が生まれるのだと言っていると、その意味を解説した。
「Xゼロの変革」を志すことはドラッカーのイノベーション思想と通ずるものだとし、宇田川氏は「そのような変革を担うのは誰か?」と問いかけた。一般的には、変革は組織のポジティブ・デビアンス(逸脱者)的な存在、イントレプレナーシップを持った人たちが引き起こすものと考えられている。しかし、彼らだけに変革を期待するのではなく、彼らを支援しケアし続ける存在としてのコーポレートやCxOの存在が重要だというのが、宇田川氏の考えだ。