競争が基本の社会から、棲み分けが基本の社会へ
山極:しかし、利他は本来、生物に備わっているのではないかという研究が出てきたんです。今西錦司はダーウィンの競争原理に基づく進化論とは全く違う「棲み分け理論」を提唱(『生物社会の論理』)しています。これは、4種のヒラタカゲロウの棲み分けの研究から発想したもので、進化とは「棲み分けの密度化」だとしています。つまり、個体が増えていけば、お互いに共存できるやり方へ変える必要があり、競争し合ってひとつが生き残るのではなく、共存できるように知恵を絞るということです。
今の政治も経済もトマス・ホッブスの理論が根本にあるので、国際的に優位に立つことばかり考えています。その結果が新自由主義や現在の資本主義です。昨年菅元首相が「自助・共助・公助」の順で考えてほしいと発言して問題になりましたが、それが現代の政治家の本音でしょう。科学技術もすべて個人の単位で考え、個人の能力を競い合わせる形になっています。個人の能力によって起こった格差はなるべく平準化していきたいけれど、能力の違いなのだから本来的には仕方がないことだとして、見逃してきた。その結果、個人はバラバラになり、ルールや規則にしがみつかせるような方法になっているのだと思いますよ。