「産業革命モデル」と「情報革命モデル」で異なるビジョンの意味
現在、企業経営において、経営・組織・商材・働き方のレベルで大きな変化が起きている。経営レベルでは重視するものが株主利益の最大化から、SDGs・ESG投資、インパクト投資といった事業の社会的意義に変わっている。組織レベルでもトップダウン型組織からフラットで様々な働き方を許容する自律分散型組織に変わり、商材はアナログからデジタルへと変わっている。働き方もロジックを重視するものから、クリエイティブを重視し、共創するものへと変わりつつある。
そのような変化のなかで、組織の形とマネジメントモデルの根本が「産業革命モデル」から「情報革命モデル」へと変わってきていると佐宗氏は指摘する。
左側が従来のMBAなどで言われるような組織である。選択と集中によって競争優位性を獲得し市場を支配、利益最大化のためにオペレーションの改善をして効率的な生産体制をとる。すでにある市場において競合のいないところに一目散に向かっていくことが必要なので、何に向かうべきかを示すものとしてビジョンを置く。いわば“軍隊”のような「囲い込み」の発想でマネジメントをするのが従来の組織だ。
しかし情報革命後の組織では、世界中がネットワークでつながり場所性がなくなってきている。そうなると、企業は自分たちが何者でどんなことをしたいのかというミッション・バリューと、自分たちがどういう世界を作りたいかというビジョンを発信することで、初めて世界とつながることになる。そしてその発信によってユーザーやパートナー、競合と関わりを持ち、組織外部の知と社内インフラを組み合わせて価値共創を行うようになる。その価値共創によって「何をするか」、つまり新しい戦略が創発されていく。そういったいわば“宗教”のような「呼び込み」を行うのが情報革命後の組織だと、佐宗氏は説明する。
組織がこのような変化をしていることこそ、ここ数年、多くの先進的な企業が中期経営計画という数値的な未来予測だけでなく、長期ビジョンとして自分たちの理想をストーリーで語るようになっている理由である。