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DXの次のパラダイムシフト「QX」

QXで日本発の世界を変える産業を生み出す──未来を切り拓く「VEP-Cycle」とは?

第1回 ゲスト:住友商事 QXプロジェクト 寺部雅能氏、蓮村俊彰氏(後編)

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 量子コンピュータとはどのような仕組みなのか、なぜ寺部氏と蓮村氏は量子コンピュータや「Quantum Transformation プロジェクト(QXプロジェクト)」に挑戦しているのかを伺った前回に続き、今回はQXプロジェクトで進行しているプロジェクトや、QX実現の鍵を握る「VEP-Cycle」について聞きました。 ※取材はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保って行っています。

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QXプロジェクトでは住友商事内50部署と議論が進んでいる

高橋沙織氏(以下、敬称略)前編では、量子コンピュータとはどのような仕組みなのか。そしてなぜ住友商事がその分野に取り組むのかというお話を伺いました。ハードウェアだけを研究していても、キラーアプリを発見しなければ日の目をみなくなるかもしれないというお話もありました。現在、「Quantum Transformation プロジェクト(QXプロジェクト)」では、どのようなプロジェクトが進行しているのでしょうか。

寺部雅能氏(以下、敬称略):QXプロジェクトの取り組みをお話しする前に、量子コンピュータによる最適化による社会課題解決のイメージをご紹介しようと思います。

 たとえば、クルマの渋滞に対する研究があります。みなさんがクルマを運転するとき、カーナビやマップアプリで最短のルートを検索すると思います。しかし、全員がその最短のルートを選ぶと、需要が集中して渋滞が発生してしまいます。渋滞が起こると迂回ルートを検索するでしょうが、全員がその迂回ルートを選択すると、その迂回ルートも渋滞してしまいます。つまり、個別最適の世界では、全員が目的地に早く到着できなくなるという不幸が起きるわけです。

 これを全体最適化し、Aさんはルート1で、Bさんはルート2で……とルートをうまく割り振ることができるようになると、同じ数のクルマが走ったとしても渋滞が緩和され、目的地に早く到着できるクルマが増えるはずです。それぞれのクルマが目的地へ到着するまでにそれぞれがどのルートを選ぶと全体として一番渋滞しないかを求めるわけです。

 仮にクルマ1台につき3通りのルートの選択肢があるとします。するとクルマ10台で約6万通り(3^10=59,049)、20台で約35憶通り(3^20=3,486,784,401)、30台で約206兆通り(3^30=205,891,132,094,649)のルートの組み合わせになります。実際に道を走っているクルマは30台では済みませんし、ルートの選択肢も3通りではないでしょう。渋滞解消のためには、途方もない膨大な組み合わせから最適な組み合わせを選ばなければなりません。

 このような問題を「組み合わせ最適化問題」と言います。既存のコンピュータでこの計算をすると、何時間もかかったり、ときには1日以上要したりすることもあります。しかしクルマは常に動いているので、それぞれのクルマの動きや状況の変化に合わせてリアルタイムにこの最適化を繰り返し、それぞれのクルマを常にナビゲーションしなければいけません。この計算を量子コンピュータの活用によって瞬時に解くことができれば、リアルタイムに全体最適なナビゲーションができ、渋滞という大きな社会課題解決へ貢献できる可能性があります。渋滞の例はあくまで一例ですが、このように量子コンピュータによる最適化には様々な社会課題の解決が期待されています。

高橋:量子コンピュータがどのような場面で利用できるのか、イメージができました。QXプロジェクトでは具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか?

寺部:たとえば「Quantum Skyプロジェクト」に取り組んでいます。いわゆる“空飛ぶクルマ”に関するプロジェクトです。空飛ぶクルマは2020年代末には商用で運航が始まるとも言われています。そうなると、量子コンピュータが全盛になっていくであろう2030年代には、多くの空飛ぶクルマが世界中を飛んでいるだろうと考えられます。空飛ぶクルマの三次元の交通制御はとても複雑な最適化問題で、量子コンピュータの力が活きる可能性があります。そこでアメリカのOneSky社や東北大学と一緒に量子コンピュータを用いた三次元交通制御シミュレーションを実証し、2021年に開催された国際会議「QUBITS2021」で発表しました。

 空飛ぶクルマ自体がまだ空を飛んでない時代からなぜこんなことをやるのかと思われるかもしれませんが、こういった未来像を今から描いておくことによって、様々な分野の人たちから「だったらこのような実装は可能だろうか?」と声をかけてもらえるようになります。実証を重ねていくことで、未来を一緒に創っていく。共にアプリケーションを作り、共に技術を作っていくことが、我々の考えるQXです。

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金融、電力、スマートシティ フォアキャストで進むQX

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この記事の著者

佐藤 友美(サトウ ユミ)

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