ビジネスの中で誰かに幸せになってもらう
岩嵜博論氏(以下、岩嵜):本連載のテーマは「社会貢献と企業としての成長をどう両立するか」です。前回は良品計画の執行役員・生明弘好氏と、同社が掲げる「地域への土着化」をテーマに、グローバルとローカルを両立させたバリューチェーンでの取り組みを伺いました。特徴的だったのは、「地域への土着化」を実現するためには現場の社員が自律的な意思決定を行えることが必須だとして、経営陣が社員に「編集力」を身につけられるよう支援をしていることでした。
今回は貴社の取り組みから、「社会貢献と企業としての成長をどう両立するか」という問いを深掘りできればと思います。
水口貴文氏(以下、水口):我々の活動の根底にあるのは、Our Mission & Valuesにある「人々の心を豊かで活力あるものにするために」というものです。巷ではミッションとパーパスの違いは何かということが議論されますが、このOur Mission & Valuesこそがパーパスです。スターバックスには毎週約500万人のお客様がいらっしゃいます。そうしたお客様のひとりでも多くに、店舗での体験を楽しんで欲しい。だから我々にとっては、お客様一人ひとりと向き合うことが一番の基本になります。
確かに環境や地域への貢献といった様々な社会的な活動に取り組んでいます。でも原点にあるのは、やはりビジネスの中で誰かに幸せになってもらうことで、まず先に存在することだと思っています。Our Mission & Valuesにある「人々の心を豊かで活力あるものにするために」は、その後に「ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」と続いていきます。我々のビジネスは、基本的にはすべてこのことに基づいて組み立てられています。
パーパスの浸透はポジティブフィードバックの循環から
岩嵜:ではOur Mission & Valuesをどのようにパートナー(従業員)に伝えているのでしょうか。多くの企業では、ミッションやパーパスを掲げても伝わっていかないという話もよく聞きます。
水口:一番は、日々お客様からフィードバックをいただいていることではないでしょうか。お店に来ていただいたお客様が喜んでくださっているのか、そして笑顔になっているのか。我々はリテールビジネスなので、店舗でフィードバックをいただくことにより、自分たちのやっていることが正しいのか、役に立っているのかを体感できます。もう1つのフィードバックは、一緒に働いている仲間からもらえるエネルギーです。我々はひとりではなく、みんなで同じ目的に向かっています。そこでお互いに「さっきのあれ、良かったね」というフィードバックを循環させることで、自然とOur Mission & Valuesに資する行動が強化されていきます。
岩嵜:今の話を聞いて腹落ちしました。店舗でお客様からそして仲間から直接フィードバックをもらうことが、さらなる浸透や行動強化につながるということですね。
水口:我々は「察する」という言葉を使うのですが、一人ひとりのお客様の状況を判断できるのは、お店にいてそのお客様の目の前に立ったパートナー以外にいません。お客様と話しながら、感じながら、見ながら「察する」ことなしには、温かい体験は提供できません。