巨人の肩の上に立ち、車輪の再発明をしない
琴坂:朝倉さんは『Zero to IPO』の序文を書かれています。実践の現場から得られた知識で書かれた素晴らしい本だと思います。というのも、学術研究として「スタートアップがゼロからIPOするまでの流れ」を体型的にカバーすることは非常に困難です。スタートアップ研究は、専門がマーケティングや組織論、リーダーシップなどの分野に細かく分かれているうえ、再現性の問題が常に付きまといます。経営学はすべてそうですが、研究の対象が絶えず変容するため、ある一時点を分析して知識を体系化しても、領域によってはその瞬間から陳腐化することも多いのです。
もちろん時間が経過してもあまり陳腐化しない知識は必ず存在しますし、それは学ぶべきです。研究者は「巨人の肩の上に立つ」という言葉を好みます。先人の知恵を知ることで、悩む必要がないことを気にしなくてよくなります。同様に企業でも、競争優位や差別化の要因になっていない活動については、競争をしても互いに損だという発想があります。たとえばどのメーカーのものを選んでも大差がないのであれば、自社開発せずに業界全体で共通化しようと動くわけです。自動車業界やデバイスメーカーなどでもそのような発想が多く見受けられます。