実務上の留意書面(つまり包括的な実務ガイドではない)である
人的資本の「開示実務」の視点がない
人材版伊藤レポートは、人的資本の重要性や効果的な活用方法について解説していますが、包括的なものでないことは前項までで書いた通りです。その上で実務プロセスを見た場合に、特に大きく欠如しているのは「開示実務についての視点が希薄である点」です。企業には、有価証券報告書など様々な方法で、人的資本に関する情報の開示が求められています。女性活躍推進法など雇用に関する法制度でも、開示を求める法令が複数あります。こうした開示とその実務に関する記載は、人材版伊藤レポートには一切ないと言ってよいと思います。
これは、単に「開示に関する業務の記載がない」という問題だけでなく、開示を意識するために生まれる様々な側面が人的資本経営の実践から捨象されてしまっているということでもあり、注意が必要だと思われます。たとえば人的資本経営の実務において、まずは経営戦略を踏まえて人材戦略をどう遂行していくかを絞り込むプロセスがありますが、これは外部への開示を意識することとかなりつながった行為です。