「脱炭素版〇〇」の発明だけでは問題解決にならない
石田仁美氏(以下、敬称略):現在、世界では毎年590億トンの温室効果ガス(GHG)が排出されていると言われています。この主な原因は、経済学で言うところの「外部性」。つまり、GHGが排出されても企業や個人に直接的な不利益がないことが、大量の排出につながっていると考えられています。
GHG削減に取り組むインセンティブがなく、取り組むためにお金もかかるということでは、なかなか社会全体を巻き込んだ動きは起こりません。このような状況をどうすれば変えられるのか。本日は、ハルモニア CEOの松村さんと、東京大学 マーケットデザインセンターの野田さんにお話を伺っていきます。まず松村さんから自己紹介をお願いできますか。
松村大貴氏(以下、敬称略):ハルモニアは、価格戦略(プライシング)に取り組む専門集団です。なぜ、価格戦略に取り組む企業が気候変動に取り組んでいるかというと、「『脱炭素版の〇〇』を発明するだけでは、カーボンニュートラルは実現しない」ことを問題意識として持っているからです。
GHG削減には、新しいエネルギー源や素材など、供給側から各産業の脱炭素ソリューションを進めるのも大切ですが、一方で、それらを使う需要側をどうやってシフトさせていくか、あるいは需要をどう減らしていくかも重要になってきます。
しかし、ビル・ゲイツが述べているように、環境に良い製品はそうでない製品に比べて価格が高いという「グリーンプレミアム」の課題が指摘されています。価格差が大きいままでは、お金に余裕があり行動するモチベーションのある人しか環境問題に取り組めず、価格差を負担できない国や企業は、気候変動対策に及び腰になってしまうでしょう。
ハルモニアは、この問題を「価格」の面から解決しようとしています。当然、価格だけですべての問題を解決できるわけではありませんが、価格をデザインすることで、各人の道徳のみに依拠しないシステムをつくり上げ、個人や企業を動かしていきたいと考えているのです。