なぜ「社員の意識変化」を独自指標で開示したのか
田中弦氏(以下、敬称略):2023年のみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)の統合報告書を読みました。昨年の人的資本開示から大きく変化しましたね。まず、「社員の意識変化」を示す独自指標を新たに開示しているのが目に飛び込んできました。この変化の背景や意図を教えていただけますか。
上ノ山信宏氏(以下、敬称略):私たちは今、人事制度・運営を抜本的に改革しようと取り組んでいる最中です。歴史の長い組織ゆえ、未だに1960~70年代の高度成長期の環境に最適化した制度・運営を所々で引きずっている現状があります。これまでも人事改革自体は何度かやってきたのですが、そこに込められた魂みたいなものは、50年前からあまり変化してこなかったわけです。
環境も変わり、社員一人ひとりの仕事に対する意識は50年前とはまったく異なりますし、会社と社員の関係性も大きく変わっています。そんな新しい関係性・価値観の中で人事システムをどう組み立てるかが一番の課題だと考えました。
田中:そうした課題感を抱えているところに、世の中の人的資本開示への関心が高まるタイミングがちょうど重なったということですね。
上ノ山:そうですね。ただ、もちろん統合報告書は投資家をはじめ社外の方に向けて作成しているものではありますが、それと同時に「もっと社員にも読んでほしい」という想いもあるんです。統合報告書が会社と社員の対話のツールになればよいなと。昔は、会社が「我が社の方針はこうだ」と示し、社員はそれについていくのか、いかないのかという一方的な関係性の企業も多かったと思いますが、今は双方向の対話が重要ですからね。
田中:昨年に比べ、開示項目が大幅に増えているのが一目見てわかります。
上ノ山:現状の開示に加えて、2024年度から始まる新しい人事制度についても記載しました。新たな人事制度そのものは昨年の段階で既に計画していたのですが、まだ詳細を外へ出すには早いということで、昨年は曖昧な記述に留まっていました。今年は、それらを一気に開示しました。
田中:統合報告書の中で、「カルチャーを変える」ということが色々な形で表現されています。
上ノ山:はい。ただ、個人的にはカルチャーの変革そのものを目的化するつもりはありません。パーパスを掲げ、そこに向けた事業戦略を推進していくためには組織のケイパビリティが必要だし、ケイパビリティを充足させていくためには、まず土壌となるカルチャーが必要だと考えています。