日本におけるエフェクチュエーションの第一人者で、『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)の著者である吉田満梨氏(神戸大学大学院准教授)へのインタビュー後編。エフェクチュエーションの概要や有効性を確認した前編に続き、エフェクチュエーションの適用範囲、日本のビジネスにおける成功事例などを詳しく聞いた。
正解がわからない時代に新しい社会や生活様式を作っていくのがアントレプレナー
──さきほどまでは、エフェクチュエーションとは何か、それを構成する5つの原則とともに解説いただきました。エフェクチュエーションの適用範囲をどのように捉えていますか。
サラスバシー先生(ヴァージニア大学ダーデンスクール サラス・サラスバシー教授)は経営学の領域だけとは考えていないでしょう。彼女は一貫して、「エフェクチュエーションは不確実な状況における意思決定の一般理論である」とおっしゃっています。
サラスバシー先生が研究している「アントレプレナーシップ」という言葉を起業家精神と捉えると、「起業家だけが使うものなんでしょ」と思われるかもしれません。でも、元々のアントレプレナーシップの定義は、新しい市場や価値を作る営みのことです。それはとても広い領域であるはずです。
実際、海外ではアートの創作活動や災害対応といった、不確実性を伴う状況で価値を生み出していくような実践もエフェクチュエーションの対象と捉えた研究展開がなされています。
──未曾有の災害に直面した際の意思決定などにも、適用可能なわけですね。
個人的には大いに可能だと思っています。以前、東北大学のセミナーにお招きいただきお話ししたときに、オーディエンスの中に救急救命の専門医の方がいらっしゃいました。東北の震災で医療現場の陣頭指揮をとられたそうですが、エフェクチュエーションに近いことを自分たちもやっているとおっしゃっていました。
災害はなかったことにはできないし、平常時の医療でも、例えば余命4ヶ月と言われているような終末期の患者さんは、ある意味ではコーゼ―ションから見放されている状態にあるわけです。被災前の状態に戻すとか寿命を延ばすといった形の“最適“を追求することはできません。それでも現場の方々は、放っておくわけにはいきません。最後に生きた時間がご本人と家族にとって満足できる形になるように、その状況でできることに集中して、新しい意味や目的、価値のようなものを紡いでいく。そのやり方が、すごくエフェクチュエーションとフィットすると思うんです。
──経験したことのない状況で意思決定をしていかなければならない時代だからこそ、企業にとってのエフェクチュエーションの有用性も大いに感じられますね。
サラスバシー先生があるスピーチの中でおっしゃっていたのが、生成AIのような新しい技術が出てきても、それによって何を価値として作っていくべきかは誰にもわからないし正解があるわけではない、ということです。そういう状況において新しい社会や生活様式を作っていくのがアントレプレナーなんですよね。
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