ガートナージャパン(以下、Gartner)は、エグゼクティブ・リーダーがイノベーションを主導するために押さえておくべき3つのステップを発表した。
様々な業界における再編やAI/生成AIなどによる人間の仕事への影響、地政学的リスクやマクロ経済情勢の影響など、絶え間なく起こるディスラプションによって昨今の労働環境は継続的に変化している。こうした環境の中で舵取りするために、エグゼクティブ・リーダーにはイノベーションに速やかに適合し、ビジネスモデルを再構築し、イノベーションを加速させることが求められているという。
一方で、Gartnerがグローバルで実施した調査によると、イノベーションの責任を追うITリーダー/ビジネス・リーダーにとって自社のイノベーション活動に影響を及ぼしている主な障壁の上位3項目は、社内人材の能力(33%)、社内のリスク選好度(28%)、組織文化(27%)であり、社内の課題であることが明らかになったとしている。
バイスプレジデントアナリスト兼Gartnerフェローの藤原恒夫氏は次のように述べている。
「エグゼクティブ・リーダーはこうした社内の障壁を克服するために、リーダーとしての新しい行動様式を採用してイノベーションを主導することが求められます。マインドセットを転換し、自らの行動を見直し、リーダー自身が破壊者(ディスラプター)になる必要がありますが、それには、データ・ドリブンな意思決定を行い、破壊的なイノベーションを起こしていくことが重要です」
エグゼクティブ・リーダーがイノベーションを主導するために押さえておくべき3つのステップは以下のとおり。
1. 従業員にトレーニングと教育リソースを提供し、動機を与える
エグゼクティブ・リーダーが実施すべき最初のステップは、従業員に創造や探求をもたらすトレーニングと教育リソースを提供することだという。これにより従業員は、イノベーションのフレームワークを理解し、イノベーション活動(たとえば、新しいアイデアの創出や探索の方法)を実行するための、スキルと能力を身に付けることができるとしている。
エグゼクティブ・リーダーはまた、実質的な動機を付与する必要があるとのこと。一例として、リスクを負って何か新しいことを実験/摸索する従業員に対し、評価や褒賞のようなものが想定され、それにより従業員は、通常業務をこなしつつ、多様なチーム環境で新しいアイデアを実行するモチベーションを高めるという。
藤原氏は次のように述べている。
「エグゼクティブ・リーダーはイノベーション文化を育むために、速やかなマインドセットの転換を主導し、トップダウン、ボトムアップ双方で協業と協働をして従業員のイノベーションに対するインセンティブとモチベーションを上げる必要があります」
2. 共通のビジネス成果の達成に向けて最初のトレーニングを終えたチームに権限を与える
個人の担当範囲や領域を超えて新しいプロダクト、サービス、ビジネスモデルを創出し、組織全体で共通のビジネス成果を推進するには、現場で課題を解決する自律的かつ自己統治型の環境をチームに提供することが重要。イノベーションを起こしやすい環境を提供する際は、始まりの段階で実験を妨害せず、イノベーション・チームに権限を与えるために、ガバナンスを緩和する。そして、ビジネス上の重要度と複雑性が増すにつれて、ガバナンスを段階的に強化し、ビジネス部門が主導またはIT部門と提携して一緒に監督や統制するなど、重要度と複雑性に合わせてガバナンスの強度を適応していくことが重要になるという。
またイノベーション能力にはデータ・リテラシーの要素も重要である。ビジネスにおける価値創出にはデータによるエビデンスが必要だが、そのためには、達成すべきビジネス成果の特定とその成果の測定手段、目標達成のために必要となるデータ・ソースは何か、その情報(データ)は意図した利用者にどのように利用されるのかについての理解度を高める必要があるという。従業員のデータ・リテラシーを高めるトレーニングもあわせて提供し、チームを教育することで、データという共通言語によるデータ・ドリブンな意思決定を行うことが可能になるとしている。
3. ルールを破る者となり、絶えず実験を続けることで破壊的イノベーションを起こす
法律、倫理、規制コンプライアンスに反することや、企業のDNAに組み込まれている指針や原則は破るべきではないものの、イノベーションを妨げ、共通のビジネス成果の達成を阻害する可能性のある他のルールはすべて破ってもよい対象として検討すべきだという。
藤原氏は次のように述べている。
「エグゼクティブ・リーダーは『キャリアを賭け』、より高いリスクを負って、これまで到達できなかった高みを目指して競合に打ち勝つ必要があります。骨抜きにされることなく、ルールを破って常識を疑い、絶対に諦めることなく現状を打破して変化をリードし続けることが求められます。不確実な時代にイノベーションを追求するエグゼクティブ・リーダーは、自らが次のディスラプターとなることを目指すべきです。企業が何もせず、ディスラプションを起こさなければ、他企業が破壊的な製品やサービスを世の中に先駆けて出し、自企業そのものが近い将来破壊される可能性があります。過去にも業界をリードしてきた企業が、他企業からの破壊的なイノベーションの出現で意外と早く存続困難に陥った事例がいくつもあります。ブロックバスター、コダック、ノキアなどは代表的なものです」