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実践フェーズの人的資本経営

なぜ味の素は有報で課題を赤裸々に開示したのか──味の素の人事部長と語る、人的資本経営の実践とパーパス

ゲスト:味の素株式会社 執行理事 コーポレート本部 人事部長 森永浩康氏

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業績の落ち込みをきっかけに人的資本の取り組みが始まった

田中弦氏(以下、敬称略):味の素さんといえば、経済価値と社会価値の両方の実現を目指す経営方針「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」を掲げていらっしゃることが特徴ですね。人的資本経営はまだ始まったばかりと伺っていますが、きっかけがあったのでしょうか。例えばこの10年で、人に関連する取り組みを大きく変えたことなどはありますか?

森永浩康氏(以下、敬称略):会社が大きく変わるきっかけになったのは、業績の落ち込みです。過去20年を振り返ると、当社は2000年以降2019年にかけて、10年単位で最初は順調に営業利益を伸ばしていたのですが、途中から失速しています。その理由を、当時の社長の西井(孝明氏)が導き出した答えが、外部環境変化への適応力の弱さでした。

味の素グループのASV経営2030年の目指す姿と2020–2025中期経営計画
図版:味の素株式会社『味の素グループのASV経営2030年の目指す姿と2020–2025中期経営計画』(2020年2月19日)から引用/クリックすると拡大します

 2000年代初頭は飼料用アミノ酸の製造・販売を行う動物栄養事業が大きく成長していました。ところが、中国の企業などが参入して市場への供給過多となった結果、価格が大幅に下落しました。コモディティ化に対処しきれずに減速してしまったんです。

 その原因のひとつに「縦割り組織のタコツボ化」がありました。隣の組織がやっていることが見えていても、自分たちは関知しない、自分の組織のボスだけを見て仕事をしているという状況があるのではないか。それではイノベーションは停滞してしまうというのが、西井の見立てでした。

 そこで処方箋として打ち出されたことのひとつが、組織変革です。タコツボ化を脱却するために共感を促そう、自発性を促すために手挙げ式にしていこう、良い意見が出せるように心理的安全性を担保しよう、といったことを掲げました。また、縦割りを打破する仕組みとしてCDO、CIO、CXOを設置するなど、さまざまな策を講じて横串を通して行く方針も示されました。

 それから、ガバナンスです。何事も閉じられた世界の中で決めていくのではなく、指名委員会等設置会社に移行し、社外取締役がきちんと公平な目で人選をし、実効性のある取締役会にしていこうということに取り組みました。

 また、西井は働き方改革も相当進めました。働き方まで踏み込まないと人はついてこないということで、2017年には所定労働時間を20分短縮して8時15分から16時30分を就業時間としました。スーパーフレックス制度を2014年には導入していましたのでかなり柔軟に働けるようになりました。

 西井はこれらの処方箋をまとめ、覚悟を持ってやろうと呼びかける中で次の社長への交代も決めました。現社長の藤江(太郎氏)はその方針を踏襲し、経営をさらに「スピードUP×スケールUP」とパーパスの刷新により進化させるべく尽力しています。これがこの10年で変わってきたことだと思います。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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