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「自社のサプライチェーンは安定している」はわずか半数 SCMの課題と今後5年間に焦点──KPMG調査

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 KPMGは、2022年11月に実施した「KPMG Future of Supply Chain Survey」の結果に基づき、サプライチェーン業務に関する今後のトレンドや、企業が短・長期的に優先して取り組んでいる主要な課題と機会について考察した「The future of supply chain―これからのサプライチェーンに関する調査2023」を発表した。

サプライチェーンの世界の現状と、サプライチェーンのリーダーが日々直面している課題

 数年にわたるサプライチェーンの混乱と顧客需要の変動により、多くの組織・企業は、このまま永遠に危機が続くという印象を抱いている。当面の間は、地政学的紛争やインフレ圧力、経済環境、気候変動にともなう異常気象、またはこれから浮上する課題がさらなる混乱をもたらすという。

 サプライチェーンのリーダーが直面する複雑な情勢の中で、当面の重要課題として次の3つが挙げられる。

(1)存続とレジリエンス

 現在のサプライチェーンは、加速する納品スピードや顧客の利便性、チャネルの境界線の曖昧化に対応できるようには作られていない。そのため、物理的な物流網の設計と将来的なオペレーティングモデルを大幅に修正する必要があるという。

 しかしKPMGの調査では、「自社のサプライチェーンは安定し未来への備えが十分にできている」と答えた回答者はわずか55%で、47%の回答者は「混乱に対して脆弱だ」と答えた。

 また、今後1〜1.5年間において、回答者はさまざまな課題を予期しており、中でも最も喫緊の課題として挙げられた項目は次のとおり。

  • 71%:原材料価格の上昇
  • 70%:サプライチェーンの川上の混乱
  • 67%:スピードに対する顧客の期待に応えること
  • 62%:労働力不足
  • 62%:運送費の上昇
(2)マクロな要求事項への対応

 サプライチェーンのリーダーは、マクロな経済的・環境的要因を背景に、地政学、規制改正、ESGなどの新たな現実への適応を迫られているという。

 地政学的な緊張の高まりからサプライチェーンを守るため、サプライチェーンのリーダーは、供給源をより近い場所に確保し、サプライチェーン網の安全性を高めようとしている。また、より野心的なサステナビリティ目標や、業界の規則の厳格化、新たに導入される関税同盟、および顧客の需要の変化に備えなければならない可能性もあるとした。実際に、同調査の回答者の38%が、「顧客ニーズへの対応をサプライチェーンに長期的な影響を及ぼす2番目に重要な優先課題」としている。

(3)未来への対応

 同調査では多くの回答者が、地球温暖化や地政学的な緊張の高まり、新たな規制要件、DXの必要性など、新たに浮上した課題にどう対応すべきかについて懸念していると答えた。

 多くの回答者は、より長期的に成功を収められるよう、オペレーティングモデルに関する能力開発に重点を置いている。先進的な組織は、デジタル基盤の加速や技術的トレンドの理解、自動化による価値創造を通じて、既に未来への対応に投資しているという。

今後1~2年の課題

(1)サステナブルサプライチェーン

 環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する懸念の多くは、サプライチェーンに関係している。ESG課題がサプライチェーンとサプライチェーン網の設計に影響を及ぼすことは避けられないという。

 サプライチェーンに関して重要な戦略的決定を下す際は、そのESG目標に対する影響を理解しておくことが重要である。正式なサプライチェーン計画のプロセスにサステナビリティ目標とイニシアチブを盛り込み、企業は今後1〜2年間で次の6領域の側面を大幅に改善できるよう、体制を整える必要があるという。

  • 責任ある調達:生産・調達した素材が搾取と無関係であることを確認する
  • デューデリジェンス:企業がバリューチェーン全体を通じて責任ある持続可能な行動を取り、法令を遵守していることを保証する
  • 脱炭素化:サプライチェーン全体の活動から排出される炭素の削減に取り組む
  • サーキュラーエコノミー(循環経済):クローズドループサプライチェーンを構築し、再利用可能な原材料を創出する
  • 製造・生産工程における人権: 世界水準の人権、ディーセントワーク、そして労働者の権利が守られていることを確認する
  • 技術を活用したESG報告:技術を活用し、ESG目標の実現に向けたパフォーマンスの透明性を高める

 デューデリジェンスと開示を義務付ける規則は時間の経過とともに強化され、今後もさらなる規則の施行が予定されている。

デューデリジェンスと開示を義務付ける規則の状況[画像クリックで拡大]
デューデリジェンスと開示を義務付ける規則の状況
[画像クリックで拡大]
(2)先進ロボティクスおよび自動化

 同調査では、37%の回答者が、「倉庫での手作業を先進ロボティクスまたは自動化に置き換えている」とわかった。また、これからのサプライチェーンにおけるロボティクスと自動化の傾向として、次の動きが予想される。

  • 先行セクター:ロボティクスと自動化の未来は業種ごとに異なると予想される。この分野では自動車および消費財・小売セクターが先行してきたが、農業、食品・飲料、ヘルスケア、製造業、公共機関の5つのセクターも僅差で後に続いている
  • スマート機器のエコシステムによる効率改善:KPMGの調査では、63%の回答者が、「人が行う反復的な作業の多くは機械に置き換えられる」と回答し、59%の回答者が「けがのリスクが高い作業は自動化される」と予想した
  • コボットの台頭:サプライチェーンに早くからロボティクスと自動化を導入した企業は、「協働ロボット(コボット)」が積極的に労働者を支援する環境を構築しつつある。コボットは、従業員による製品のピッキングや梱包、パレット化、または倉庫内での貨物の運搬を支援する
  • 生成AI:生成AIとは、単に既存のデータを分析し、それに基づいて行動するAIではなく、コンテンツを生成することが可能なAIを指す。生成AIモデルは特定のタスクを自動化し、前例のないスピードと効率性で実行することにより、企業に変革をもたらす可能性がある
(3)未来の労働力

 サプライチェーン技術を発展させ、イノベーションを推進し、顧客に焦点を当てるのは人の役割であり、そのため、組織は人々をサプライチェーン戦略の中心に据える必要がある。これからのサプライチェーンの労働力の特徴は、次のようなものになると予想されるという。

  • デジタルと人の共存:サプライチェーンは、デジタルと人の優れた部分を組み合わせ、効率性を高め、自動化とデジタル化によって業務を合理化すると同時に、人材を活用して戦略的価値とイノベーションを推進していく可能性が高い。また、人とロボットから成るブレンデッドワークフォース(多様な労働力を活用する人員配置戦略)の導入が必要になる可能性がある
ブレンデッドワークフォースの構築:デジタルと人[画像クリックで拡大]
ブレンデッドワークフォースの構築:デジタルと人
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  • 自動化が労働力に及ぼす影響と役割の刷新:自動化とDXがもたらす影響の意味するところは、いずれの時点で得た労働力かにかかわらず、今後わずか数年で組織の需要と合致しなくなる可能性を認識する必要がある。サプライチェーンのリーダーとそのチームには新たなスキルが求められ、人と機械の共存を進めていくうえで、人の役割を刷新することが必要である
  • 労働力形成の5つの「B」とピープルデータの力:どのような人材を採用するか(Buy)、どの領域で人材を開発するか(Build) 、どのタスクを外注(借りる)するか(Borrow)、どのタスクを自動化するか(Bot) 、配置やハイブリッドおよびバーチャルを含めた拠点をどうするか(Base) 、5つの「B」から労働力の最適化を決定する。また、ピープルデータを活用し、従業員と企業の双方にとって最善の決定を下すことが重要となる
  • 従業員価値提案(EVP)を高めるための技術・ソフトスキルとイノベーション:メタバースなどの新技術は役割を刷新するだけでなく、バーチャルな入社式や現場視察など、EVPの一部を構成することもできる。また、メタバースを利用して従業員やクライアント、コミュニティが互いにつながり、働きかけ、成長機会を探る手段としての協働ハブを確立する組織は、今後増加していくと思われる。自動化やデジタル機能の採用で、人は機敏性や変革、顧客、イノベーションに集中できるようになる
  • 変革を推進する企業文化:企業は自社の文化やリーダーシップを活用してサプライチェーンの変革を推進すると見られ、これらは企業が未来の労働力を開発する方法の鍵になると予想される。これには、企業の人材に対する見方や、強い目的意識をどう培うか、企業とこれからのサプライチェーンが目指す方向をどう描くかが含まれる

今後3~5年間の焦点

(1)分散型台帳技術とデジタルマネー

 サプライチェーンや物流オペレーションの複雑さに対応するため、今後3~5年間で分散型台帳技術(DLT)とデジタルマネー(DM)への投資が増加し、バリューチェーン全体でデータを標準化することにより、信頼性の高い貿易が促進されると予想されるという。DLTやDMの潜在的なメリットは数多く存在し、サプライチェーンの可視化やトレーサビリティの強化、企業間連携の最適化、資金へのアクセスの改善などが挙げられる。

  • トレーサビリティの強化:トレーサビリティを強化し、サプライチェーン内の貨物に関するリアルタイムの情報、可視性、および信憑性を提供する
  • 企業間連携の最適化:データを標準化し、サプライチェーンのレジリエンスを高める所有権の共通レジストリを用いて、企業間連携を最適化する
  • 資金へのアクセスの改善:貿易金融を通じた資金へのより良いアクセスを提供し、決済と国際貿易の効率性を高める
(2)各セクターにおける変革

 世界的な混乱に加え、セクター別のシフトがサプライチェーンに大きな変革をもたらすことが予想されるという。予想されるセクター別のシフト例として、ヘルスケアおよびライフサイエンス、小売、そして航空宇宙・防衛セクターが挙げられる。

  • サプライチェーンに大きな変革をもたらす、業種別の大きなシフト例
    • ヘルスケアおよびライフサイエンスセクター:貨物の極めて高精度な追跡をはじめとする精密医療とMedTechの進歩への支援や、増加の一途をたどるデータを管理するためのDaaSの導入に向け、新たなサプライチェーンソリューションを推進する
    • 小売セクター:バーチャルと実店舗の両方のカスタマーエクスペリエンスにおいて、予測分析とパーソナライゼーションを推進する必要がある
    • 航空宇宙・防衛セクター:より厳しい監視の目にさらされるようになり、そのため、ほぼリアルタイムの意思決定支援やハイパーコネクティビティが求められる
(3)メタバース

 メタバースとは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、PC、各種デバイス、ゲーム機、スマートフォンを緩やかに統合する有望な技術プラットフォーム。現在、企業の間で最も一般的なメタバースの使用方法は、バーチャル会議、バーチャルオフィス空間、デジタルツインの創造、および製品の設計に関するブレインストーミングである。

 サプライチェーンにおけるメタバースの実務への導入はややスタートが遅かったとは言え、サプライチェーンのリーダーとそのチームがこの技術を適用する可能性は高いものと見られる。KPMGが2023年に実施したメタバース投資家に対する調査の回答者の90%以上が、「今後ビジネス環境での利用が拡大する」と予想していた。

 サプライチェーンのリーダーは、最終的に次の3段階に分けてメタバース技術を取り入れていくと思われる。

  • 第1段階:現実世界でのエンゲージメントと学習体験(顧客、従業員および企業とのエンゲージメントを深め、コミュニケーションを強化し、リアルタイムでの協働を円滑化する)
  • 第2段階:サプライチェーンにおけるデジタルツイン(メタバースを活用し、物理的なネットワーク・人・プロセスを複製する、相互に接続されたデジタルツインを対象として、バーチャルでシナリオのモデリングを行う)
  • 第3段階:物理的サプライチェーンのバーチャル化(企業はメタバースツールを利用して自社のサプライチェーンを完全にデジタル化し、物理的な境界をなくす)

 メタバース技術の導入には課題がつきまとう。メリットを享受するには、企業は規制や法律に関する問題を克服し、サイバーセキュリティ、データ能力、およびテクノロジーハードウェアに多額の投資をする必要がある。導入に成功するのは、模索の段階を速やかに終え、メタバースを従業員の研修や顧客へのエンゲージメント、自社のサプライチェーンの合理化に活用する方法を見いだす企業だという。

 すべての企業は、今後の展開に適応し、自らの業種内でのメタバースの活用計画に着手して、自社に付加価値をもたらす機会が訪れた際には即座に行動できるよう、準備を整えておく必要がある。

  • メタバース導入の課題
    • 技術能力とハードウェア
    • データ
    • セキュリティ
    • 規制上の障壁、法律、法域
    • 所有権と財産

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