面積減少と出社率回復の「二重苦」をデータで突破
セッションの冒頭、清水氏は現代におけるオフィス投資の意義を「人的資本の開示義務に伴う、経営の重要な投資機会である」と定義した。
「経営者は、投資機会としてオフィスをどう構築し、従業員の才能をどう、引き出しているのかをステークホルダーに説明しなければならない。その説得力の前提となるのが『データの可視化』である」と清水氏は強調する。
続いて八木氏から、IDH東京が直面していた経営課題が具体的な数値とともに示された。同オフィスの在籍人数は、2021年の850名から2026年には1,300名へと約1.5倍に急増。しかし、床面積は変わらないため、1人あたりの面積は8.5㎡から5.5㎡へと約4割も減少している。これは一般的な世間平均である9.8㎡の約半分という厳しい水準だ。
さらに、出社率はコロナ禍の40%から70%へと大幅に回復。通常であれば、環境悪化による従業員体験(EX:Employee Experience)の低下を招く局面だが、イトーキの社内サーベイは驚くべき結果を示していた。オフィスの快適性、生産性実感、そして企業へのエンゲージメントのすべてが、ベンチマークを遥かに上回る高水準を維持・向上させていたのである。
八木氏は、このパラドックスを解決した鍵が「データ分析」と「AI活用」の掛け合わせにあると語る。「限られた面積のなかで、成果に直結するスペースを特定して再配分する。そして、絞り込んだスペースの運用をAIで最適化し、ムダを徹底的に排除する。このサイクルこそが、都市部のオフィス空室率低下や賃料上昇に悩む日本企業共通のブレイクスルーになる」と、同様の課題を抱えるマネジメント層へ向けてメッセージを送る。
「満足度」から「成果」への指標シフト
イトーキが実践するデータドリブンアプローチの最大の特徴は、オフィス評価の指標を従来の「従業員の要望・満足度」から「能力発揮度」へと完全にシフトさせた点にある。
従来のアンケートを基にしたオフィス構築では、全従業員の要望を網羅的に満たそうとするあまり、バランスの取れた、悪く言えば特徴のない空間になりがちだった。それに対し同社は、自社開発の位置情報追跡サービス「Workers Trail(ワーカーストレイル)」による行動ログデータと、定期的な「能力発揮度」アセスメントを掛け合わせて相関分析を実施。これにより、人事評価(成果)と統計的有意性を持つ「本当に生産性を高めているスペース」の特定に成功した。
