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再現性のあるイノベーション経営の型

経営の短期思考に抗うための仕組み・人材・環境とは──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【前編】

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頻繁な経営者交代がイノベーションに与える影響

 イノベーションにおける経営者の役割をテーマにした最初のディスカッション。

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 まずは短期視点の経営戦略と長期的なイノベーション戦略の齟齬が焦点となった。ある参加者は、経営戦略が短期的目標の「フォーキャスティング思考」(過去の延長で計画する)に偏りがちだと指摘し、イノベーションには未来像を描き、そこから逆算する「バックキャスティング思考」が必要だと述べた。そして、短期目標はCOOが担い、CEOは長期ビジョンに専念すべきだという主張があったが、日本企業ではこの役割分担が不明確なことが問題だとした。

 特に大企業では、数年で経営者が交代することが多く、そのたびに経営方針が変わってしまうケースが見られる。これがイノベーションの障壁の一つだという意見が多くのテーブルで共有された。その打開には、短期的リターンを求める投資家やアナリストに、長期的なビジョンを理解してもらう必要があるという。

 また、ある企業の例では、通常6年弱かかる新製品開発が、1、2年ごとに変わる経営戦略に振り回されているという。この企業では、経営者は「自ら未来を見据えた戦略を作り、次の経営陣を説得することまでがイノベーションチームの使命だ」と伝えているという。また、プロジェクトを自身が最後まで見届けることが困難なため、後継者を育成して引き継ぐことを優先しているとの意見もあった。

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パーパスの明確化を通して短期サイクルに抗う

 経営者の任期が短くても、経営陣がチームプレーをすれば、組織の力で継続性を担保することが可能ではないか、との指摘もあった。その一例がパーパスの明確化だ。

 ある企業では、コロナ禍を機に「パーパス(企業の存在意義)」を真剣に議論した結果、経営判断がパーパスに基づくものとなり、新規事業の推進にも役立った。軸の明確化は長期的な視点を持った経営にも効果的であり、深い議論を経たことで、経営陣の結束も強まったという。

 イノベーションとは、投資を通じて知識を吸収し、その成果が価値、そして財務に反映されるまでのプロセスである。経営者には、その投資をどのように、いつまでに回収するかの戦略を立てることが求められている。

 特に、挑戦が一見無理に見える場合でも、長期にわたりリーダーが支援を続けることが重要だ。イノベーションの成果を評価するのは経営者ではなく顧客である。

 イノベーション創出においては、経営者は個々の取り組みの良し悪しを判断するのではなく、環境を整えるのが役割だとの指摘が複数のテーブルで聞かれた。例えば、3Mのポストイット開発においても、弱すぎる接着材という失敗が付箋という製品に転じている。こうした機会が訪れた際に、経営陣が性急に介入せず、見守ることが必要だという。

 一方で、新規事業の取り組みが担当者の単なる趣味として捉えられないよう、社内での位置づけを明確にし、寄り添う姿勢が重要だ。そこで事業が軌道に乗った際には、社内での継続、スピンアウト、外部との提携のいずれを選択するのかという戦略的判断が、経営トップに求められるなどの意見が聞かれた。

 経営者の役割は、新規事業を直接生み出すことではなく、それを推進する人材を確保、育成することでもある。優秀な人材を引き寄せ、失敗を恐れず挑戦する文化を作ることで、若手が自由に取り組める環境を整えることが重要だ。どれほど優れたシステムを導入しても、変革を牽引するのは最終的には人材である。

 特に、イノベーションのリーダーは、既存事業で成功した人材とは異なる。むしろ、辺境で挑戦を続ける人材を発掘し、彼らに成長の場を提供することが求められているという意見も上がった。こうした人材に時間とコストを許容し、長期的な視点で支援する姿勢が経営者には必要だ。事前に許容可能な時間的・経済的コストを設定しておくことも不可欠である。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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