イノベーション・マネジメントの成功要因とは
もう一つ特筆すべき点として、IMSには「8つのイノベーション・マネジメントの原則」がある。それは従来の経営とは異なる、イノベーション・マネジメントシステムの基盤となるもので、かつイノベーションの成功要因だ。8つとは以下のものである。
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- 価値の実現
- 洞察の追求
- 不確実性のマネジメント
- 未来志向のリーダー
- 戦略的な方向性
- 組織文化
- 柔軟性
- システムアプローチ
「未来志向のリーダーシップ」は、組織におけるイノベーションの戦略的方向性を明確にし、社内に伝えることであり、イノベーションを生み出す組織文化を育む点からも重要である。この文化が組織内でのイノベーション実現にとって非常に重要だとカールソン氏らは認識している。
「不確実性のマネジメント」とは何か。不確実性は、イノベーションを他の取り組みと差別化するものだといえるだろう。新しいものを創造する際には、多くの仮定や不確実性が伴う。そのため、すべての情報が揃っていない状態で意思決定を行い、探索し、その不確実性を活用する方法を学ぶことが必要である。これらがイノベーション・マネジメントシステムへとつながる。
下図は、「イノベーションへの意図(Intent)」から「価値の実現(Value)」へと流れるプロセス(フレームワーク)である。これらのプロセスもISO 56001の中で説明されている。さまざまなシステム要素は、このプロセスを可能な限り効果的かつ効率的に機能させるために設計されている。
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ISO 56000シリーズは、共通言語と共通フレームワークを提供している点で意味がある。他企業とコラボレーションを行う際には、共通言語とフレームワークが出発点として不可欠である。これが組織内での部門間連携やパートナー企業、さらにはエコシステム全体との効果的なイノベーションを可能にする。
また、ISO 56000シリーズは非常に大きな汎用性がある。イノベーションの定義を定めたISO 56000と同様に、あらゆる種類の組織やイノベーションを対象としているためだ。ISO 56002によって、後述する「イノベーション・マネジメントの専門職」も定義できることになる。
ISO 56001は、ISO 56002で示された推奨事項を認証規格化するべく、要求されるものを示したものである。このメリットは従業員、パートナー、顧客などに対して、イノベーションへのコミットメントを促すことができる点にある。推奨事項を実行することで、組織内で適切な成功要因を整えられるため、高い価値を、より早く実現することが可能になる。
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カールソン氏らは「ISO 56001」がこの分野のゲームチェンジャーになると確信している。ISO 56001は組織内で能力を体系的に構築することを支援し、要求事項への適合性を確認し、認証機関による審査を受けてISO認証を取得する機会を提供する。認証を取得すれば、外部に対してその能力を証明することが可能になる。オープンイノベーションなど、外部と協力する際には有利に働くだろう。