大澤氏が目指す二つの変革
宮森:日本の本社からは、大澤さんがマレーシアで実施されている取り組みについて、どのような評価や反応があるのでしょうか。
大澤:実はまだ、マレーシア味の素のメンバーと共に新しいビジョンを構築した「ビジョンプロジェクト」を通した組織カルチャー変革について、正式には日本本社へ共有できていない状況です(2024年12月上旬の取材時)。ただ、2024年12月にはASEANの拠点全体で話し合う場があり、そこで初めて発表する予定です。また、2025年1月には全世界の法人長が集まる日本での会議があるので、その場で具体的な内容を報告し、意見を募る予定です。
宮森:ぜひその取り組みが広がり、モデルケースとして認識されるといいですね。現在進められている変革について、どのような目標を設定し、将来的にどのような成果を目指されているのでしょうか。
大澤:大きく二つあります。一つ目は、マネジメントチームの現地化を進めることです。現在、経営の主要メンバーは日本人が多くを占めていますが、これを少しずつマレーシア人中心の体制に移行し、議論や意思決定が現地で主体的に行われるような習慣を根付かせたいと考えています。
最終的には、マレーシア人の社長を輩出することが目標です。そのため、どういったメンバーに、どんな経験を積んでもらうか現在プランニングしています。ただし、財務やR&D部門は日本がかなり強い面があるため、現地化と同時に、役割の整理が課題となります。
もう一つは、ビジョンプロジェクトを具体的な事業成果に結びつけることです。組織文化の変革を進める中で、やはりビジネスとしての結果がともなわなければ、取り組みが持続しないと考えています。そうした文脈の中で注目しているのが、「Seri-Aji」というブランドの調味料製品です。この製品は、マレーシアで40%を占める「B40」と呼ばれる低所得者層に多く利用されており、製品ユーザーの96%が、この層に属していることがわかりました。
宮森:そのようなデータから、新たな方向性が見えてきたということでしょうか?
大澤:そうなんです。当初、この製品は売上が伸び悩み、「継続するべきか」を議論していたほどでした。しかし、調査を進める中で、この製品が低所得者層にとって欠かせない存在になっていることが判明しました。これまで「売上が伸び悩んでいる」として終売を検討していた製品が、実はマレーシア社会の重要な部分を支えているとわかり、社員全体でその意義を再認識できました。
それまでは工場サイドのメンバーが「やめてもいいのではないか」と考えていた部分もありましたが、データを共有し議論を重ねる中で、「この製品は絶対に必要だ」と全員が同意するに至りました。マーケティング部門も当初は「存続させたい」と言いつつ、その目的が明確ではありませんでした。しかし、実は私たちがビジョンプロジェクトで策定した新ビジョンと、製品の位置づけがリンクしていることを理解し、具体的なマーケティングプランが急速に形作られています。