事業特性に応じた出口戦略の重要性
イノベーション:制度が定着するためには、既存事業との関わりも重要だと思います。Challenge Xから既存事業に何らかの還元や影響はあったのでしょうか。
堀尾:既存事業への貢献としては、人材育成や発掘の面で大きな効果があったと感じています。Challenge Xで採択には至らなかった方が、元の部署に戻って提案したテーマで活躍しているケースや、ピッチを聞いていた他部署の方が「うちに来てもらいたい」と声をかけて実際に異動するようなケースもありました。こうした人材交流が、組織全体の活性化にもつながっています。
大間知:また、進捗報告の仕組みも重視しています。提案者が元いた部署に対して、定期的に進捗を共有する「前報告」「中間報告」「事後報告」という3回の報告機会を設けています。これにより、元の部署も「あの案件がここまで進んでいる」という実感を持てますし、提案者と元の部署との関係性も維持できます。
これは何もChallenge Xだけが特別ではありません。たとえば営業部門が全社キャンペーンを行う際も、協力してくれた他部署に結果報告をすることで、次につながるものですよね。このように丁寧な報告体制を作ることが、全社的な巻き込みにつながっていると信じています。

イノベーション:3段階の報告体制は、非常に興味深いアプローチですね。よくあるのは、異動が生じる関係で「前報告」だけ大切にするケースです。その後、新規事業部門に異動したら元の部署との関係が希薄になるという状況もあると聞きます。定期的な報告機会を設けることで継続的なコミュニケーションを促進し、元の部署との関係維持を図るというのは、非常に効果的な取り組みだと思います。
続いて、具体的な事業化事例についてもお聞かせください。どのような形で事業化がなされたのか関心があります。
堀尾:現在までの事業化事例としては、出向起業制度を活用した「ENEOSアメニティ」があり、採択案件が会社として独立したケースです。これは製造業などの暑熱環境で働くエッセンシャルワーカーに対して、ドライアイスジャケットというソリューションを提供するビジネスです。近年の猛暑で熱中症の発生に頭を悩ませている現場に対して、圧倒的な冷却能力を持つドライアイスジャケットを提供することで労働環境を改善するという、社会的意義の高い事業です。一方で、本業とのシナジーという意味では、ドライアイスの原料となる炭酸ガスという当社グループの商材を活用する面はあるものの、現場作業服の供給という、当社に知見があるわけではないビジネスモデルゆえに、マイノリティ出資という形で応援することになりました。
また、別の案件は4月から既存事業部に移り、そこで事業化検討を進めていますが、プログラムとしては大きく3つの出口を想定しています。既存事業部門に取り込むパターン、自社の子会社として会社を作るパターン、そしてカーブアウトするパターンです。どのパターンが最適かは案件ごとに検討しています。
大間知:基本的には、最初は自社内での事業化を目指しながら、事業の性質や成長可能性に応じて、最適な形を模索します。ちなみに、将来の受け入れ先となる可能性のある部署は、早い段階から巻き込むことも意識しています。報告会で進捗を共有するだけでなく、定例会以外でも日頃からコミュニケーションをとり、関係性を構築するようにしています。案件の特性に応じて、適切なタイミングで連携していくことが重要です。
イノベーション:出口戦略の柔軟性は大事なポイントですね。では、ENEOSイノベーションパートナーズとの連携についても教えていただけますか?
堀尾:ENEOSイノベーションパートナーズは、スタートアップ投資を行うCVCにおける、投資会社としての役割が中心です。Challenge Xとの直接的な関係は現状それほど強くありませんが、ENEOSアメニティのケースでは、ENEOSイノベーションパートナーズから出資する形になりました。ただし、出資判断は案件ベースで行われており、Challenge Xで採択されたからといって自動的に出資が決まるわけではありません。
大間知:また、この事例では経済産業省の出向起業補助金の制度も活用しました。経産省が実施している制度ということが、社内の信用担保となり、事務局としても後押しができた面があります。
イノベーション:なるほど、事業特性に応じた出口戦略を考えられているのですね。CVCとの連携や公的制度の活用も上手く組み合わせていて参考になります。重要なのは「その事業が最も早く大きくなる道筋はどこか」という視点だと思います。KPIも事業ごとに異なるため、私も新規事業提案制度を運営する際は、それぞれの事業が求めているゴールを最短で達成できる形を選べるように常に意識しています。
