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メンバーレベルが大企業を動かすには──3つのケースから見るイノベーションのポイント

第3回

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すべてを解決する銀の弾丸はなく結局は「直接突撃」

 ここまで、「大企業をメンバーレベルが動かすには?」というテーマを解説してきました。準備を続けて機会を待つ、協力関係を築くための時間を得る、外部の力を利用するという3つのケースを紹介しましたが、いずれの例もたいへんな苦労を経て今があります。銀の弾丸はありません。

 どの例にも共通しているのは「直接突撃」です。

 ある企業では、これまで既存顧客向けに新製品を数多く開発してきたものの、新しい顧客層をターゲットとした製品は出したことがありませんでした。その新しい顧客をねらう新製品の責任者はマーケティングには長けていましたが、製造の知見は不足していました。その方は製造について知見のある人をとにかく回り、どうしたらこの新製品が作れるか、アドバイスと協力を求めました。

 「そんなに皆さん協力してくれるものでしょうか? それぞれのお仕事も忙しいのでは?」と聞いたことがあります。返って来た答えは、「机まで行けば、断る人はいませんよ」でした。

 直接話すことの重要性というのは、陳腐なように聞こえますが、侮れないものです。

 ある企業では、スタートアップの技術を活用して既存事業の生産性を向上するために、まず工場や物流の現場に足を運び、ヒアリングを重ねています。アクセスが悪い場所だとしても必ず何度も足を運ぶそうで、それにより、「よくこんなところまで来たね」「本社の人間は本社ビルから出ないものかと思っていた」と驚かれながらも快く受け入れてもらえることもあると聞きます。そのような関係性の構築から、「実はこういうことで困っていて……」「今までなんとか人力でやってきたけれど、何かいい方法はないか」という相談につながり、新しい技術やサービスの試行を進めています。

 また、別のある企業では現場にイノベーション部門が足を運び、現場の「もっとこうだったらいいのに」「こんなことができたら楽なのに」というヒアリング結果をマッピングしています。それにより、何が大きな悩みなのか、複数の現場で共通の悩みとは何か、当人たちも自覚していなかったその現場特有の悩みは何なのかを明確にできたといいます。それらの悩みに対応した新しい技術やサービスを試したことで実際に解決できたという経験が、なるほど本社の言っているオープンイノベーションとはこういうことか、という納得感につながり、より多くの現場での導入や全社的な動きにつながっています。

 「メンバーレベルが大企業を動かすにはどうすればよいか?」この問いには、簡単ですぐできるような解がありません。また、それぞれの企業の風土や過去の経緯、経営陣が重視するものによってもすべきことは異なるでしょう。しかし共通しているのは、今回お話を伺った方はどなたも非常に根気強く、かつある種の強烈な使命感を持って取り組んでいるということです。

 最終回となる次回は、彼ら・彼女らは一体どんな人物なのか、走り続けるためには何が必要なのかについて考えます。

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この記事の著者

三吉 香留菜(ミヨシ カルナ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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