データインフォームド経営の実践に欠かせない、小さくても早期に示す「成果の可視化」

AirJapanでは、ギックスと協働し、データに基づいたレベニューマネジメント体制を構築。過去のデータがまだあまり蓄積されていないなか、3路線体制という小規模スケールに適した柔軟な仕組みを短期間で立ち上げた。特に、ギックスのデータ分析チームとのディスカッションを重ねながら、実際の運賃決定に直結する仕組みを実装できたことは、大きな成果だったと峯口氏は振り返る。通常であれば相当な時間を要するこのプロセスをスピーディに進められたことは、「クイックウィン」の意義を体現する結果だった。

網野氏も「まず動く仕組みをつくることが重要だ」と強調する。たとえば、観光回遊の仕組みを先行させることで短期的な成果を提示し、そこから得られるデータを次の施策への布石とする。データ収集そのものに予算をつけるのは難しいが、「見える成果」と「未来への備え」の両立を図る枠組みであれば、行政や住民の理解も得やすくなる。

網野氏は地方の課題が複雑に絡み合っている点にも言及した。人口減少、産業空洞化、教育の再編など、個別対応では追いつかない問題に対しては、「スモールステップで成果を積み上げ、現場で検証しながら拡張していく」アプローチが有効だと指摘する。
これに対し、桑原氏は町長の経験を踏まえ、小さな実績の重要性を追加する。まずはわかりやすい成果、つまりスモールサクセスを早期に周囲に示すこと、そして信頼と期待を得ながら本質的な改革にもつなげていくということが重要だと強調した。

行政と地元人材、データ分析人材の共創
津南町では「つながる、つなんスタンプラリー」の取り組みを通じて、町民・職員・外部企業が一体となった地域活性化の仕組みを実践。津南町のケースでは、ギックスが分析を担うものの、町職員や住民の主体的な関与が、分析の解釈や共有プロセスにさりげなく組み込まれている。
網野氏は「データ分析の専門家ではあるが、町のことは何もわからない」と前置きし、地域の真の専門家は住民自身だと強調。外部からの視点と、地域内の経験や感覚が交わることで、持続可能なまちづくりが現実のものになる。桑原氏は、ギックスとの連携後、組織としても変化が生まれており、実際、町職員が自ら予算を獲得し、企画・実行・改善までを担う体制が根付きつつあると述べた。

網野氏は、こうした地域の改革はスタートアップ企業と本質的に共通する点が多いと述べる。予算獲得のために成果を示す必要がある行政においても、小さく始め、検証し、スケールさせる流れは非常に有効だ。たとえば、スタンプラリー施策では観光回遊の流れをデータで可視化し、次なる施策への布石とする構造が生まれている。
三者の見解に共通していたのは、トップダウン型の政策だけでは地域は変わらないという点だ。対話を重ね、ともに仮説を立て、結果を見て、次の行動に移る。そのサイクルこそが、持続可能な地域経営とイノベーションを生む土台になるのだということがわかったセッションであった。