「社内政治」の経営学
佐宗(株式会社biotope 代表取締役/イノベーションプロデューサー):
今回の著書では、「社内政治」に関しても書かれていますね。私は様々な大企業のイノベーションのコンサルティングをしていますが、現場でぶつかる半分の課題は「自社をどう動かしていくか」ということです。私が運営する biotopeというデザインファームは社内マーケティングによるイノベーション実現のプロセスデザインをコアの価値として提供しており、まさに社内政治を乗り越えることが大きなテーマです。社内政治について、経営学ではどのように扱われているのですか?
入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
社内政治は経営学でも多くの研究があります。アメリカの企業にも、当然ながら社内政治はあります。ただ日本とはその様相は違います。日本は「ボトムアップ型社内政治」なのに対し、アメリカは上のキーパーソンを押さえるという「トップダウン型の社内政治」という印象です。
また、社内政治とは少しずれますが、経営学には「アテンション・ベースト・ビュー」という考え方があります。大きな組織における失敗の多くは、意思決定者の事業への「アテンション(注目度)」が、うまく機能していないことが原因で起きます。「え、うちの会社こんなことやっていたの?」とトップやキーパーソンですら自社の事業についてよく知らないことは大企業ではありえますし、それは大きな失敗要因になります。そこで、どのようにしてトップのアテンションを高め振り向かせるか、どういう組織にすればいいのかという経営学の研究が多くあるのです。
佐宗:
私見ですが、統合的な戦略が立案・実行されない理由の一つは、役員会議では事務方が根回しした論点を承認する「落とし所のある議論」だけで、自由闊達な議論になってないということだと思うのです。役員も一人一人は考えていることは現場とずれていないことも多いけど、「役員会議」になるとその場の空気は、現場と乖離が起こります。役員は、個別にプライベートで飲みながら話をするなどの工夫が、すごく大事だと思います。
また、仮に「市場における新しい兆し」が現場で見えていても、「まだトップの人にアップデートをするほど確実ではない」という中間管理職の人の推しはかりの意識も働いて、結果的に経営陣にアテンションが届きにくいという構造があるように思います。
例えば先生の本でも「ドミナントデザイン」への言及・解説がありました。組織構造や事業モデルに合わせて組織がつくられ、それによって結果的に情報の流れが決まり、アテンションが限られてしまう、というお話だと理解しています。