ユーザー科学の系譜としてのUXメトリクス
篠原(ソシオメディア株式会社 代表取締役、以下、篠原):昨今、日本でもユーザーを起点にした考え方やアプローチが、製品やサービス作りにとって必須であるのみならず、UX(ユーザーエクスペリエンス)の組織への導入が、イノベーションを志向する企業の経営戦略にとっても有益なものではないか、といった機運と期待が高まってきています。そこで、昨年より、こういった「UX戦略」を捉えるための仮説として、図のような「UX戦略フレームワーク」を設定して、イベント活動を開始しました。今回(10月)は、そのテーマを「メトリクス」とした上で、「UXの測定や計測」の専門家であるジェフ・サウロ氏をお迎えして「UXの測定や計測の実践方法」や「UXにおけるROI」といった内容に迫っていきたい、と思います。
このイベントで「メトリクス」を取り上げるのは、『ユーザーエクスペリエンスの測定』(東京電機大学出版局)の著者であるビル・アルバート博士を迎えた昨年12月のイベント以来、2度目になります。それは、このテーマが、ビジネスにおけるUXの有用性を論理的に導く上でも重要なテーマであると捉えているからなのです。そのような中、前回は「UXメトリクス」の入門のような内容を展開したのですが、その講演の中でビル博士がもっとも多くの事例として紹介したのがジェフの数々の実証的な取り組みでした。そこで、UXの基礎的な測定方法について体系的に知った後には、是非ともジェフを招聘して、更に実践的な内容に踏み込んでいきたい、と決めていたのです。
ジェフ・サウロ(Measuring U 創業者兼代表、以下、ジェフ): この度は、日本にお招きくださり、ありがとうございました。ビルとも大変懇意にしていますし、ある意味では「UXのメトリクス」を探求するといったテーマの同じ専門家コミュニティの一員でもあります。彼の書籍は、ユーザーの活動や体験を測定してデータ化できる、といったことを体系化したという意味では、この業界に多大な貢献をした、といえるでしょう。私は、2年前にユーザーエクスペリエンスやユーザビリティといったユーザーに関わる分野の歴史や流れを整理する目的で、インフォグラフィックによる年表を作るプロジェクトを行いました。その際も、ビルの著書は、ユーザーに関わる分野をエンジニアリングとして体系化したヤコブ・ニールセン博士の著書と並んで、重要な位置付けにあることを紹介しています。
篠原:あの年表は、今回のジェフの来日に向け、その実績を紹介する流れで、翻訳して公開したのですが、初学者のみならず、専門家の方々からも反響が多くあるのですが、米国ではどうだったのでしょうか?
ジェフ:米国でも非常に大きな反響がありました。UXやユーザビリティなどユーザーに関わる研究や動向のキーとなるイベントや人、出版物といったもの全てを総覧して関係付けたのですが、その作成自体、数々のインタビューやリサーチがあって、結構労力がかかっているんですよ。ただし、もう3年が経とうとしているので、そろそろアップデートが必要ですね。