オープンイノベーションというアプローチと副産物
自社内で完結するクローズドイノベーションに対して、オープンイノベーションは、取り組もうとしている新規事業における優位性を構築するために外部の持つ経営資源と自社の経営資源を統合・結合することで実現しようとするアプローチです。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2016年7月に刊行した「オープンイノベーション白書」が引用した米国人研究者ヘンリー・チェスブロウ氏によれば、オープンイノベーションの定義は以下のとおりとなります。
「オープンイノベーションとは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである」
近年では市場の不確実性が増しただけでなく、雇用流動性の高まりやインターネットの普及・発達を要因とした優秀な人材やアイデアの外部への流出から、大企業ですら「自社ですべてをまかなうこと」には限界を感じ始めています。様々な経営資源の観点から制約の多い中堅・中小企業も、今後はこれまで以上に外部資源を活用したり他社と協業したりと「オープンイノベーション」を経営に取り込むことが重要になってきます。
オープンイノベーションのメリットは、外部の経営資源を獲得し、自社の経営資源と統合・結合することで優位性が構築でき、事業展開において取り得る可能性を広げてくれることにあります。さらに、3つの副産物も期待できます。
1つは、事業開発を大幅にスピードアップできることです。何らかの技術や製品を開発する際は調査・研究・企画、設計から開発、またその後のマーケティングや営業を通じた収益化といったプロセスが必要で、自社の経営資源だけで完結させようとすると多くの時間を要します。調整やコミュニケーションにかかる時間やコストなどのリスクはあるものの、変化の激しい昨今の経済環境において、スピーディーに事業を立ち上げられることの価値や意義は計り知れません。
2つ目は、コストを大幅に削減できることです。既存の外部資源を活用して技術や事業を開発していくアプローチは、すべて内製するケースと比べて、多くの工程を省略できます。企業が初めてオープンイノベーションの取り組みを実施する場合は、初期のノウハウや経験を蓄積するフェーズで、一部はコスト負担が先行する部分もありますが、中長期的に見てコスト削減につながる可能性は高いといえます。
3つ目は、オープンイノベーションへの取り組みを通じて、自社内の経営資源や競争力となる技術や特許・知財などを改めて整理し、今後の経営戦略・成長戦略の構築にも有効なフィードバックが得られる点です。オープンイノベーションといっても、自社の経営資源のすべてをオープンにする必要はありません。オープンにすべき部分と、クローズドにすべき部分、それぞれの性質や特徴を把握することが重要です。そのプロセスを経ることで、今後の企業の経営戦略や成長戦略を検討する上でも参考になる非常に有用な気づきや情報を得られることもあります。