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新規事業開発マネジメントの要諦

“意義”と“定義”で整理する6パターンの事業開発──多様なアプローチをケースバイケースで使いこなす

第4回

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オープンイノベーションをブームで終わらせないための処方箋

 オープンイノベーションは近年、画期的な新規事業開発アプローチとして、ブームとも呼べるほど日本企業において取り入れられてきました。しかし、取り組む企業が急増した一方で、そこから事業化に至り、成功事例と呼べるような事業が生まれているケースはまだまだ少ないのが実情です。

 どこに問題があるのか。筆者は、近年注目されている「ベンチャークライアント」なども含めて、オープンイノベーションの手法論そのものに問題があるのではなく、取り組むスタンスやアプローチに真因があると考えています。

 企業にとってオープンイノベーションに取り組む意義の本質は、自社の経営資源だけでは解決できない課題や需要に対応し、より早く、より「大きな事業構想」を実現することにあります。単独で実現できる事業構想であれば、自社のみで取り組むほうがステークホルダーは少なくなるため、様々な調整や交渉などのコミュニケーションコストもなくなり、自由度高く推進できます。結果として成功確率も高くなり、成功した際に享受できるリターンも大きくなります。極論をいえば、このような場合ではオープンイノベーションは不要なのです。

 自社だけでは実現できない大きな事業構想を描くのは、現場の担当メンバーだけでは難しく、経営トップやトップから相応の裁量や権限を委譲されたミドルマネジメントの強いコミットメントや関与が不可欠です。しかし、実際にはそのようなケースはごく一部にすぎません。そもそも大きな事業構想を描いていない状態で取り組んでも、意義のあるオープンイノベーションにつなげることは極めて困難です。また、現在行われている取り組みの多くが、自社の経営資源を活用してどのような事業が実現できそうか、その構想やアイデアを外部の企業に対して求めて公募するアプローチです。筆者はこれを下図の整理のとおり、「受動型」のオープンイノベーションの一種に分類しています。

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 受動型の場合、多くの事業構想やアイデアを効率的に集められるというメリットがある一方で、その中で本当に自社が組むべきパートナー、ベストなパートナーとの接点を持てるかどうかはコントロールができません。そのため、事業構想の実現に向けて本当に組むべきパートナーを探すのであれば、その要件に当てはまる候補を洗い出し、自社から個別でアプローチをする「能動型」のオープンイノベーションに取り組む必要があります。

 また、往々にしてベストなパートナーの候補に挙がる魅力的な経営資源を保有する相手は、他の会社から見ても魅力的で引く手数多であるため、仮に誰もが知っている大企業が声をかけたとしても、相手のほうが交渉力の高い状態にあることも珍しくありません。ここで勝負を左右するのは、経営トップの能力や人格、コミットメントの強さに加えて、そこから生み出されるビジョンや事業構想の魅力です。描くビジョンや事業構想が壮大で共感できる内容であるほど、より優秀なパートナーを巻き込み、良い関係性を築くことにつながります。また、交渉や議論の場において高い能力を発揮しスピーディーな意思決定を下せる権限や裁量を持った人物が主体となって進めないとパートナー候補から相手にされない可能性も多分にあります。そのため、経営トップの強いコミットメントや積極的な関与が不可欠なのです。

 この能動型×トップダウンで実現する「主導型」のオープンイノベーションこそが、最も意義や成果を生みやすいアプローチであると筆者は考えます。これを普及・推進していくことで、オープンイノベーションを一過性のブームに終わらせず、真に重要な新規事業開発アプローチの1つとして、日本企業に良い形で定着できるのではないでしょうか。

 次回は、今回に引き続きビジョンから連なるインキュベーション戦略の策定に向けた残りの検討ステップや論点について解説します。

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この記事の著者

北嶋 貴朗(キタジマ タカアキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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