テクノロジーとイノベーションを結びつけるには
福田:次に、テクノロジーの重要性についてお話を伺いたいと思います。イノベーションとテクノロジーは相性が良いですが、市橋さんはテクノロジーをどのように捉えていますか?
市橋:イノベーションとテクノロジーには間違いなく強い関連性がありますが、私たちは「テクノロジーから入らない」ことを大切にしています。まず目的を明確にすること。どのような課題を解決したいのか、どのような社会を創りたいのかを最初に考えます。その上で、「そのためのテクノロジーは何か」を考えることが重要だと捉えています。たとえば、生成AIを「どう使うか」から入ってしまうと、現場の実情とずれた取り組みに陥る危険性があります。目的を明確にし、その軸がぶれないように、テクノロジーとの関係性を常に見極めながら取り組んでいくことが大切です。
福田:手段ありきではなく、目的ありきということですね。池田さんはいかがですか?
池田:行政から見ると、テクノロジーの急速な変化はルール作りにも影響を与えています。テクノロジーがめまぐるしく変化する中で、役所も従来のスピード感で法律や制度を作っていては間に合わないという認識が生まれています。特にAIのルール策定などでは、「アジャイル・ガバナンス」という考え方のもと、テクノロジーの進歩に合わせてルールもアジャイルに見直し、作っていこうという動きが実際にあります。
福田:中央官庁で「アジャイル」という言葉が使われているのは衝撃的ですし、アジャイルとガバナンスは一見相反するように聞こえますが、両方が必要だということですね。山下さんはいかがでしょうか。
山下:私は技術者としてテクノロジーの中にいたわけですが、正直に言って、新規事業に必要なのはテクノロジーよりもエンジニアリングです。新しいテクノロジーの創出は研究開発に携わる方々の日々の仕事ですが、それ自体は新規事業の目的ではなく、あくまでも手段です。目的を果たすために、どのようにテクノロジーを磨き、工夫するのかがエンジニアリングです。この理解がないと、目の前の性能を上げること自体が目的化してしまうという落とし穴に陥りがちです。新規事業とは、まさに事業をエンジニアリングすることだと言えます。
福田:なるほど。研究、開発、そして事業化という流れの中で、テクノロジーにばかり注力しがちですが、事業化こそが本質だということですね。
