顧客を捉えきれない経営の“死角” 経営判断を鈍らせる2つのギャップとは
顧客データを戦略的資産に転換するには、まず自社のデータの流れがどこで停滞しているかを正確に把握しなければなりません。まずは、経営判断を鈍らせる深刻な構造的障壁となる、「顧客理解のギャップ」と「顧客体験反映のギャップ」を掘り下げます。
1.顧客理解のギャップ
電話録音、チャットログ、Web行動、購買履歴、アンケート回答、これらはすべて「顧客の意志と行動」を示す重要なシグナルです。しかし、現実には、これらのデータは部門ごとにツール(ソフトウェア)も形式もバラバラで管理され、経営層のダッシュボードには断片的にしか届きません。
たとえば、マーケティング部門ではWebサイトの閲覧履歴を重点的に見ている一方、カスタマーサポート部門はコールログしか追えていないとします。その結果、「顧客像」の輪郭があいまいになり、施策は点に終わり、全社的なシナジーが失われるのです。一貫した顧客像を描けないこと自体が、意思決定の致命的な穴となります。
2.顧客体験反映のギャップ
仮に部分的に顧客インサイトを得られたとしても、実際の改善策が現場へ反映されるまでには3~6ヵ月を要するケースが多いです。経営層の感覚からすると「1週間もかからずなんとかしなさい」というレベルであっても、実態としては稟議、承認、システム改修、現場教育など様々なプロセスを経る必要があります。それでは顧客の期待変化に追いつけず、せっかくの洞察が陳腐化してしまうリスクがあります。
SNSやレビューサイトでは評判が瞬時に拡散し、競争力のある企業は短期間で新しい施策を展開しています。それに対して自社の対応速度が四半期単位に留まっている状況は、市場変化のスピードと経営判断のスピードの大きな乖離を示しており、競争力を著しく損なう要因となっているのです。
ギャップの根底にあるオペレーター中心の「関所」
現在の顧客対応プロセスは、コールセンター=コストセンターという見立てから、データ武装が最小限に留まり、オペレーターを中心とした労働集約型の構造になっています。
またVoCに関してもオペレーターが受電内容を別システムへ手入力し、月末にExcelで集計してPDFレポートを回覧するという完全な人手前提の仕組みが確立されてしまっています。
この「情報の関所」が、データの通過を遅らせ、コストを押し上げます。問い合わせ件数が増えれば増えるほど、手作業の負荷が指数関数的に膨らみ、全件の分析などは到底及ばず、人の感覚だけを頼りにピックアップされ、真の顧客ニーズへの対応は後回しになってしまうのです。
VoCに限らず、あらゆる顧客データはこうした構造で企業の至る所で滞留し、投資が「穴の開いた桶」から漏れ出す構図ができ上がっています。こうした状況を放置すれば、いくらAIに巨額を投じても、データは有効活用されず、テクノロジーの本来の価値を引き出せません。そして競合との差は広がるばかりです。
では、分断されたデータをリアルタイムにつなぎ、経営判断を高速化するにはどうすればよいのでしょうか。次ページでは、2030年に到来する「AIエージェント同士が対話し続ける世界」を起点に、具体的な再設計図を示します。