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企業の持続的成長を実現する「顧客資本経営」

顧客資本経営はAIで進化する──2030年に勝ち残る企業になるための“3つのステップ”

第2回

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VoCフライホイール 顧客体験を高速で進化させる仕組みづくり

 スマホ転換の波で先行した企業は、広告単価をほぼ半減させながら顧客維持率を2倍に高めました。この差を生んだ本質は「学習スピード」にあります。AIX時代に学習スピードを高めるのがVoC学習エンジンの構築です。

 顧客の声は、アンケートやNPSなど意図的に聞き取るアクティブ・フィードバックだけでは把握しきれません。生成AIの進化により、カスタマーサポートの通話ログやSNS投稿、チャットボット履歴といった自発的なパッシブ・フィードバックを高精度に解析できるようになりました。Forbesが示すように、この膨大な自発データを組織的に学び続けるVoC学習エンジンが、企業の顧客体験を次の次元へ引き上げます

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参考:Forbs「Beyond SEO: How VOC Data Is Key To Converting Traffic Into Revenue

 ここに「集める→Web/アプリなど顧客接点を即改善→AIで自動完結」というフライホイールを組み込めば、顧客体験は高速に更新され続け、競合は追随できなくなります。ここでは、その回転を止めないための以下の3段階を具体的に解説します。

  • VoC基盤の整備
  • Webサポートの高度化
  • エージェントの段階的展開

1.VoC基盤の整備

 最初のステップは、チャット・メール・通話文字起こし・SNS投稿など、あらゆる顧客接点のデータを1つのプラットフォームへ集約し、VoCカバレッジを可能な限り100%に近づけることです。部門やシステムごとに散在していたログを統合することで、重複や抜け漏れをなくし、顧客の本音を漏れなく捉えられるようになります。

 集約したデータは生成AIで自動的に「FAQ系」「クレーム系」「改善要望系」などにクラスタリングし、重要度や緊急度をスコアリングします。その結果は経営ダッシュボードにリアルタイムで反映され、“どのチャネルで何が起きているか”を日次で把握できる状態が整います。意思決定者は、担当部門をまたいで発生する共通課題や炎上の兆しを一目で確認でき、投資やリソース配分の優先順位を即断できます。

2.Webサポートの高度化

 蓄積したVoCを活用し、Webサイト上のナレッジページやヘルプガイドをAIが自動要約・生成して更新します。そこに行動ログ(Webサイトの離脱ポイント、購買プロセスでのカゴ落ち、アプリ利用中の特定操作エラーの発生頻度など)を掛け合わせることで、「問い合わせはしないが困っている顧客=サイレントカスタマー」の痛点も浮かび上がります。

 たとえば、特定ページを閲覧した後に離脱が急増している現象を検知した場合、そのUIを微調整すると同時に、生成AIが自動生成した操作ガイドをポップアップで補足表示します。こうした改善は最短で1ヵ月以内にWebサイトへ反映できるため、従来は四半期以上かかっていた改修サイクルを大幅に短縮できます。

 結果としてWeb自己解決率は向上し、問い合わせ件数は減少します。CSコストの圧縮効果に加え、摩擦の少ない顧客体験が顧客維持率とLTVを底上げし、経営指標に直結する成果へとつながります。

3.AIエージェント段階的試行と将来への準備

 Webサポート改善と並行して、「住所変更」や「返品申請」など定型業務を対象にAIエージェントのプロトタイプを迅速に試行することが肝要です。初期段階は限定的な手続きのみですが、基幹システム連携の準備を進め、一定期間後にはマイページアクセス不要でAIだけで手続きが完結する体制を整備します。

 さらに、本格的な「Zero-Click Support」の実現には、顧客側のパーソナルAIアシスタント(Big Techなどが開発している段階)の普及が不可欠です。

 そのリリース前の期間を使い、企業側のAIエージェントの対話精度や手続きフローを磨き込む。それによって、顧客がクリック操作不要でAIエージェントが全手続きを完結できる環境を早期に構築していくことが顧客体験の差を生むのです。

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VoCが映す経営の覚悟と未来への決断

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この記事の著者

野村 修平(ノムラ シュウヘイ)

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