「DXの蓄積」が決定づける、生成AI活用の勝者と敗者
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):白井さんの経歴をお聞かせください。
白井恵里氏(以下、白井):2016年に新卒でメンバーズへ入社し、まずはWebマーケティングや制作領域のディレクション業務などで現場の課題に深く向き合いました。2018年には社内公募制度を通じて「メンバーズデータアドベンチャーカンパニー」を立ち上げ、代表としてゼロから事業を構築。現在は、データ活用支援サービス本部長も兼務し、複数のカンパニーを統括しながら、生成AIの導入やデータドリブンなマーケティング支援など、データ活用支援に取り組んでいます。
社外活動としては、2024年から理事として一般社団法人である「Generative AI Japan(以下、GenAI)」にも参画しています。
栗原:メンバーズデータアドベンチャーカンパニーを立ち上げた背景についてもお聞かせください。
白井:Web広告のディレクション業務を通じて抱いた課題意識が出発点でした。たとえば「クリック率が1ポイント上がった」という結果を、施策の成果か偶然か、データで説明できない状況に違和感を覚えたのです。当時、社内には検証体制も人材もなく、データ分析の必要性を強く実感しました。
タイミングとしては、社会全体でもデータサイエンスへの注目が高まりつつありました。特に、ユーザーの行動データが自然に蓄積されるサービスに着目し、従来の調査やアンケートに依存せず、実データを活用することで、より質の高い支援が可能になると考えるようになりました。
栗原:その後、コロナ禍を経て、大企業のDX推進は今どのような状況にあると感じますか。
白井:2020年から2022年にかけて、非対面・デジタル接点の急速な拡大を背景に、多くの企業が1to1マーケティングに舵を切り、DMP(データマネジメントプラットフォーム)やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の導入が進みました。
2024年頃には、BIツールによるリアルタイム可視化も一般化し、データをダッシュボード上で即時に把握する動きが定着しました。施策結果をデータで取得・分析し、次の打ち手へと着実に接続するサイクルを構築できた企業も現れ始めた一方で、導入に踏み切ったものの売上や利益につながる活用ができず、予算見直しに至る例も少なくありませんでした。
栗原:BIツール導入をしたものの、他部門から費用対効果を問われ、プロジェクトが頓挫するというお話をよく聞きますね。
白井:はい。ちょうどその頃から、生成AIへの関心が一気に高まりました。現在は多くの企業が社内版ChatGPTのようなツールの導入をしていますが、個人レベルの業務効率化にとどまり、企業価値へのインパクトが不透明なケースも少なくありません。
一方で、経費精算など定型業務に対してトップダウンで生成AIを導入した企業では、すでに明確な成果が表れています。ここでも、データを活用して施策を回す仕組みの有無が成否を分けるポイントとなっています。
さらに最近では、生成AIをエンドユーザー向けサービスに統合する動きも加速しています。たとえば、顧客一人ひとりに最適化されたダイレクトメールを自動生成し、従来は困難だった大規模な個別対応を実現しているサービスもあります。こうした取り組みは、CDPへのデータ蓄積、対外的なガイドライン整備、そして生成AIの特性を理解する人材が揃って初めて可能となるものです。
栗原:これまでのDXの蓄積がある企業は、生成AIを「攻め」の武器として本格的に活用できる段階に入りつつあるということでしょうか。
白井:まさにそうです。そうした企業の代表例が、昨年GenAIが主催した「生成AI大賞」の受賞企業です。名古屋鉄道、Ubie、弁護士ドットコムといった企業が選出されました。
多くが、すでに生成AIをエンドユーザー向けサービスに実装しており、その背景として共通するのは、社内にフットワークの軽いエンジニアが存在し、必要な開発知見を持ち合わせている点。そして、AI活用を牽引する役割が明確化され、トップマネジメントも強い関与を示していることです。経営と現場が一体となって変革を推進する体制が、成功の鍵であると言えるでしょう。