「各社の勝ち筋」が問われる、新規事業の多様化時代へ
──今後10年、日本企業の新規事業はどのように進化していくと予想されますか。
北嶋:日本企業の新規事業は着実に進化し、手法も多様化してきました。次の10年は、M&Aを軸にする、ディープテックに特化するなど、より「各社の色や独自の型」が出てくる時代になるでしょう。経営層やトップマネジメントのコミットメントを前提に、企業ごとに最適なアプローチを見つけなければ、事業の「大玉化」は望めません。なので、普段から提唱している「インキュベーション戦略」の重要性が益々高まってくると思います。
課題が高度化する中で、単純にゼロから事業を立ち上げるだけでは限界があります。たとえば近年、東証グロース市場の上場維持基準が厳格化され、スタートアップにとってIPOのハードルが上がりました。その結果、大企業へのM&A(売却)を目指すスタートアップが増えています。こうした状況では、大企業が社内でゼロから育てるよりも、有望なスタートアップを買収し、自社の経営資源を投下して成長を加速させる方が、合理的であるケースも増えてくるでしょう。近年注目されている「スイングバイIPO」などもそこに含まれると思います。
手法にこだわるのではなく、自社に合った事業の創出スタイルを確立していく。風土醸成や人材育成も重要ですが、これからはより事業の「成果」にこだわり、会社全体の業態を変えるほどのインパクトを持つ新規事業が生まれなければならない、という危機感も抱いています。
──その中で、Relicはどのような役割を果たしていくのでしょうか。
北嶋:私たちは、この変化を主導する存在でありたいと考えています。この10年で築いてきた日本中の大企業、スタートアップ、全国の中堅・中小企業、自治体、大学とのネットワークを活かし、次の10年は「『株式会社日本』の新規事業開発室」として、日本全体のイノベーション創出に責任を持つ覚悟です。単に支援して終わりではなく、私たち自身も事業主体としてリスクを取り、ともに事業を創造する「事業共創」をさらに深めます。
2035年、グループ売上1,000億・海外売上51%へ。本気のグローバル戦略
──今後の具体的な取り組みについて教えてください。
北嶋:2035年までに、日本発の事業をグローバル市場で成功させるモデルを、再現性を持って確立することを目指します。現在Relicグループは事業共創によるJVやスタートアップスタジオ「ZERO1000 Ventures」から生まれた自社事業も含めて23社・350名体制まで広がり、今期から来期にかけてグループ売上は100億円を突破する見込みですが、まだその大半は国内市場における売上です。一つの数値目標として、Relicグループの売上を1,000億円以上、そしてその51%以上を海外事業で占めることを掲げており、さらにその先には、グループで1,000社・非上場のままで兆円規模の会社を目指しています。
注力領域は、ディープテック、食、IP・エンタメ、インバウンド観光など日本の産業の中でも国際的に競争力があるところを中心に投資していく予定です。既にシンガポール法人を設立し、日本酒を酸化させずに提供できるデバイスの事業展開を開始しており、現地の著名なホテルでの導入も進んでいます。
──なぜ、それほどまでにグローバル展開にこだわるのでしょうか。
北嶋:創業からのビジョンでもありますし、国内市場が縮小していく中で、大きな事業を創造するにはグローバルで勝負することが不可欠だからです。これはスタートアップがユニコーンやデカコーンを目指すのと同じで、日本市場だけでは成長に限界があります。
また、これは共創者としてのレベルアップのためでもあります。これまで海外展開の相談に本質的に応えるためにも、まずは自らが世界でリスクを取り、日本発のプロダクトやサービスを海外に展開する生きた知見と経験を積む必要があります。
その一環として、2025年に三菱商事100%出資企業と共創スキームである「オープンイノベーションデット」による連携を開始したことも大きな一歩です。商社が持つグローバルネットワークや実業の知見は、海外での事業に挑戦する際に、まだ我々には見えていない世界を教えてくれます。
単なる支援から事業共創へ、そしてグローバル展開へ。日本企業が持つ強みを世界で解き放つ「事業共創インフラ/プラットフォーム」として、次の10年も挑戦を続けます。