事例に学ぶ、「小さな発見」から生まれるイノベーション
新規事業開発の現場では、「画期的なアイデアが必要だ」と意気込むあまり、頭でっかちになりがちです。「大きな発明」や技術革新ばかりを目指して、かえって視野が狭くなってしまうケースをよく見かけます。しかし、実際に生活者の課題を捉え、本当に使ってもらえるプロダクトやサービスは、意外にも「小さな発見」から生まれることが多いのです。日常の中に埋もれた、ほんの小さな不満や不安。その些細なシグナルこそが、多くの人に共通する潜在的な課題の発見や、新しい価値創造の種になります。
たとえば、私たちが開発に携わった“歩行専用”トレーニングサービス「walkey」のプロジェクトで、「小さな発見」がデザインの方向性を大きく決定づけた場面がありました。
ユーザーの「面倒くさい」を拾って大幅改善
walkeyは、朝日インテック株式会社と私たちquantumが共同で立ち上げたスタートアップで、「100年歩ける身体作り」を目的としたシニア向けのサービスです。歩行力強化専用に開発された機器を使い自宅でトレーニングし、定期的に専用ラボで歩行力をチェック。その結果を基に新しいプログラムが提供され、また自宅でトレーニングを続ける。このサイクルを繰り返すことで、正しく効率的に歩行力を鍛えられます。
当時私たちが抱えていた課題は、高いモチベーションでトレーニング機器を購入したにもかかわらず、「次第に使わなくなる人が多い」というものでした。インタビューや観察調査などのデザインリサーチを進めるうちに、運動を継続できない理由の1つが、使用後に機器を片付けてしまい、次に「取り出すのが面倒くさい」ことだとわかりました。
そこで私たちは、インテリアとして出しっぱなしにしても違和感のないデザインを考案し、リビングなど日常の動線の中に製品が自然に存在できるようにしました。その結果、運動が生活の一部となり、利用頻度を大幅に改善させることに成功したのです。

このように、生活者が無意識に感じている不便さや、仕方ないと諦めている「小さな違和感」を見過ごさず、丁寧に拾い上げることで、プロダクトやサービスの質は大きく変わります。「大きな発明」を目指すよりも、まずは目の前の「小さな発見」をすること。これが、生活者の課題を的確に捉えた価値提供の第一歩なのです。