既に大きな成果が出ている、AIエージェント活用
栗原:企業でのAIエージェント活用事例をご紹介いただけますか。
溝畑:代表的なのはLINEヤフー社の公開事例です。ユーザーが「新しい掃除機が欲しい」と入力すると、購買履歴や属性情報を参照し、「ペット用品を購入している」「フロアマットを購入している」といった条件を踏まえて、最適な製品を複数提案します。必要に応じて補足質問も投げかけるなど、ユーザーの思考プロセスを先回りし、エージェントとしての役割を果たしています。

栗原:他の事例もあればご紹介いただきたいです。
溝畑:ある消費財メーカーでは毎月、ECサイトへの商品のレビューやコールセンターに寄せられるフィードバックを収集し、製品改善やマーケティングに活用してきました。このプロセスを完全に自動化したのがAIエージェントです。
口コミを収集し、ポジティブ・ネガティブに分類し、集計結果を可視化する一連の工程を複数のAIエージェントが分担して行います。たとえばビールのレビューで「味がリッチ」と評価した人が2人、「苦味が良い」と答えた人が4人といったデータを整理し、競合商品も含めてレーダーチャート化することで、差別化の要点や改善案を導き出せる。従来は人手に依存していた作業を自動化したことで、月に2商品しか分析できていなかったのが、現在では全ての商品を分析できるようになったのです。

シンギュラリティが前倒しになる時代の「3つの潮流」
栗原:ありがとうございます。では、AIエージェントの台頭によって、ビジネス環境はどのように変化していくのでしょうか。
溝畑:まず押さえておきたいのは「2029年までにパソコン1台で人間と同等の知能に達する」という、レイ・カーツワイルの2005年の予測です。実際にそうなる、もしくは前倒しされるのではないかと予測されています。現時点では通常のパソコンでは動作しませんが、3年後には十分可能になるでしょう。この前提に立つと、3つの大きな潮流が見えてきます。

1つ目は、「AIエージェントの急速な普及」です。その結果、いわゆる「つなぎの仕事」や「代行的な作業」は姿を消していくでしょう。たとえば商談成立後の契約書処理や請求データの入力といったプロセスは、現在では法務や経理が時間差で確認するため一か月単位の遅延が発生していますが、今後はエージェントが即時処理を担うようになります。通関業務や貿易実務など、物流における事務処理業務も同様に削減されていくでしょう。
2つ目は「ローカルエージェントの進化」です。AIは個々人のメールや資料作成のスタイルまで学習し、再現できるようになります。すでにマイクロソフトのCopilot PCの「リコール機能」では、操作履歴を学習し、過去に開いたファイルやウェブページを即座に呼び出せます。こうした進化により、休暇中でも自分らしい文体のメールや資料をAIが作成する時代が到来します。

3つ目は、既存ソフトウェアをAI経由で操作できるようになる「MCP化」です。CADや3Dモデリング、画像処理、UI/UXデザインといった専門性の高いツールも、ユーザーが「〇〇の図面を描いて」といった自然な指示を出すだけでAIが操作し、成果物を生成するようになります。従来は専門家でなければ扱えなかった領域に、誰もがアクセスできる環境が整いつつあるのです。
