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新規事業を成功に導く“デザイン”の力

ダイソンの掃除機やクルマイス「Wheeliy」に学ぶ、プロトタイピング×新規事業開発の真価

第3回

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失敗が教えてくれる本当の価値:「Wheeliy」の事例

 新規事業において、「失敗」は避けるべきものではなく、むしろ歓迎すべきものです。いかに早く、小さく失敗し、そこから何を学び取るか。失敗から学ぶためにプロトタイプを作ると言っても過言ではありません。発明家エジソンの「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」という言葉は、新規事業の本質を的確に捉えています。

 たとえば、モルテンとquantumで共同開発したクルマイス「Wheeliy(ウィーリー)」のプロジェクトでも、多くの失敗と学びを経験しました。

 Wheeliyには初期モデルと、それに続く次世代モデル「Wheeliy 2.0」があります。これは、初期モデルを市場へのプロトタイプと位置づけ、実際のユーザーや業界からのフィードバックを元に次期モデルを開発するというアプローチを取ったためです。

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 もちろん、開発段階でもプロトタイピングで多くの検証を行いましたが、それでも現実の市場に出して初めて見えてくる課題は数多くあります。そのため、一度“完成”としたプロダクトであっても、柔軟に改良を重ねていく姿勢が欠かせません。特に新規事業では、プロダクト開発は「作って終わり」ではありません。世に送り出した後もユーザーの声に耳を傾け、プロトタイピングを続ける。そのプロセスを通じて、プロダクトは「本当に価値あるもの」へと育っていくのです。新規事業のプロダクト開発は、まさに「育て続ける営み」に他なりません。

 Wheeliy 2.0では、初期モデルから具体的なアップデートを数多く行いました。

 もともと「シームレスに移動しやすく、日常に自然に溶け込むような車いすをつくりたい」という想いからスタートしたプロジェクトでしたが、最初に完成した初号モデルはアルミ製で、十分な軽さを実現できていませんでした。私たちとしてはそこまでクリティカルなポイントではないかと考えていたのですが、ユーザーからは「移動や持ち運びに負担が大きい」というフィードバックが寄せられました。この声を受け、Wheeliy2.0では素材をマグネシウムに変更。構造全体の見直しを経て、最終的には業界でも最軽量クラスとなる8kg台を実現しました。

 また、ユーザーインタビューを重ねる中で、アクティブユーザーは従来のアームレストをあまり使用しないことが判明。そこで、泥除け・ブレーキ・簡易アームレストを一体化した新設計を採用し、操作性と軽快さを両立させました。

 その他にも、フットレストの固定方法の改良や、ハンドルグリップ形状の調整など、初期モデルでは見えなかった細かな「ズレ」を一つひとつ丁寧に解消していきました。この改善の積み重ねによって、Wheeliy 2.0はよりリアルなニーズに応えるプロダクトへと進化したのです。

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どんなアイデアもまずは形にしてみよう

 プロトタイピングには、事業開発の段階ごとに様々な手法や役割があります。しかし、その根底にある思想は一貫しています。どんなに素晴らしいアイデアも、頭の中にあるだけでは検証も改善もできません。

 だからこそ、まずは形にして、試してみる。

 失敗することは、むしろ価値ある学びの機会です。学びから「問い」を更新し、「価値」を磨き上げていく。これこそがプロトタイピングの本質です。

 プロトタイピングは決して難しいものではありません。もし、あなたが頭の中で考えすぎていると感じたら、ぜひ紙と鉛筆を手に取り、アイデアを簡単なスケッチにしてみてください。うまく描けなくても構いません。「まず作ってみること」で、そこから対話が生まれ、新たな事業の扉が開くきっかけになるはずです。

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この記事の著者

門田 慎太郎(モンデン シンタロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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